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30秒でわかるまとめ
- 看護師の心の健康は、国の指針が4つのケアで支えますセルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つです。
- 仕組みを整えるのは、働く人ではなく事業者の側です指針は、心の健康づくり計画の策定や相談体制の整備を、事業者が行うこととして書いています。
- 精神障害の労災の支給決定は、介護事業と医療業が1位と2位です業種の中分類で社会保険・社会福祉・介護事業が151件、医療業が139件。職種では看護師などが105件でした。
- 一人で抱えず、職場の外の窓口も使えますこころの耳は電話・SNS・メールで相談でき、50人未満の職場には地域産業保健センターの健康相談があります。
※法令が看護師の働き方をどんな言葉で書いているかは看護師の人間関係に疲れたとき、辞めるかどうかの判断材料は看護師を辞めたいと思ったらで扱っています。

先に断ります:この記事は「なりやすさ」を数字にしません
「看護師はメンタルヘルス不調になりやすい」という言い方を見かけます。本記事が使った国の資料からは、それを言い切ることはできません。
後半で使う労災の数字は、請求や支給決定の件数です。業種や職種ごとに働く人の数で割った割合ではありません。件数が多いことと、一人ひとりがなりやすいことは、別の話です。
診断や治療の判断はしません。心や体の不調が続いているときは、医療機関の受診を検討してください。

まず指針:心の健康づくりは「4つのケア」で進めます
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日 健康保持増進のための指針公示第3号、改正 平成27年11月30日 同第6号)が、職場のメンタルヘルスケアの原則的な実施方法を定めています。労働安全衛生法に基づく指針で、その法律上の位置づけは産業看護師のやりがいで扱っています。
「これらの取組においては、教育研修、情報提供及び「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」並びに「事業場外資源によるケア」の4つのメンタルヘルスケアが継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要である。」
出典:労働者の心の健康の保持増進のための指針 2 メンタルヘルスケアの基本的考え方(原文どおり)
4つのケアが、それぞれ誰による何なのかは、指針の5で書き分けられています。
| ケア | 誰が・何をするか(指針の言葉) |
|---|---|
| セルフケア | 労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減するあるいはこれに対処する |
| ラインによるケア | 労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 事業場内の産業医等事業場内産業保健スタッフ等が、事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推進を担い、また、労働者及び管理監督者を支援する |
| 事業場外資源によるケア | 事業場外の機関及び専門家を活用し、その支援を受ける |
出典:同指針 5 4つのメンタルヘルスケアの推進
自分で気をつけるセルフケアは、4つのうちの1つにすぎません。残りの3つは、上司、職場の産業保健スタッフ、職場の外の機関が担うケアです。
指針の定義では、「ライン」は日常的に労働者と接する、職場の管理監督者(上司その他労働者を指揮命令する者)、事業場内産業保健スタッフは産業医等、衛生管理者等及び事業場内の保健師等です(10)。看護の職場に置き換えると、日々の勤務で指示を出す上司と、病院の産業医や保健師等が、職場の中の担い手になります(編集部の読み替え)。

ここが本題:体制を整えるのは事業者です
指針は、セルフケアの必要性を認めたうえで、次のように続けます。
「しかし、職場に存在するストレス要因は、労働者自身の力だけでは取り除くことができないものもあることから、労働者の心の健康づくりを推進していくためには、職場環境の改善も含め、事業者によるメンタルヘルスケアの積極的推進が重要であり、労働の場における組織的かつ計画的な対策の実施は、大きな役割を果たすものである。」
出典:同指針 2(原文どおり)
そのうえで指針は、事業者が行うことを具体的に並べています。主なものを抜き出します。
| 事業者が行うこと | 指針の箇所 |
|---|---|
| 衛生委員会又は安全衛生委員会で十分調査審議を行い、心の健康づくり計画を策定する | 3・4 |
| 労働者に対して、セルフケアに関する教育研修、情報提供を行う。セルフケアの対象者として管理監督者も含める | 5(1) |
| 管理監督者に対して、ラインによるケアに関する教育研修、情報提供を行う | 5(2) |
| 事業場内メンタルヘルス推進担当者を選任するよう努める。人事権を有する者を選任することは適当でない | 5(3)④ |
| メンタルヘルス不調の未然防止を図る観点から職場環境等の改善に積極的に取り組む | 6(2) |
| 労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して適切に対応できる体制を整備する | 6(3) |
| 休業した労働者のために職場復帰支援プログラムを策定する | 6(4)① |
出典:同指針 3〜6
心の健康づくり計画で定めるべき事項として、指針は7つを挙げています。その最初が「事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること」です。
なお、この文書は「指針」です。本記事は、ここに書かれた事項を「法律で義務」とは書きません。指針の中でも「ものとする」「努める」「望ましい」と書き分けられています。
心の健康の情報で、不利益に扱ってはならないとされています
相談をためらう理由の1つは、「評価や配置に響くのでは」という心配です。指針は、この点に1つの項目を割いています。
「このため、労働者の心の健康に関する情報を理由として、以下に掲げる不利益な取扱いを行うことは、一般的に合理的なものとはいえないため、事業者はこれらを行ってはならない。」
出典:同指針 8(1)事業者による労働者に対する不利益取扱いの防止(原文どおり)
| 番号 | 指針が挙げる不利益な取扱い |
|---|---|
| ① | 解雇すること |
| ② | 期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと |
| ③ | 退職勧奨を行うこと |
| ④ | 不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること |
| ⑤ | その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること |
出典:同指針 8(1)①〜⑤
指針はまた、事業者が労働者の心の健康に関する情報を入手する場合には労働者本人の同意を得ることが必要で、その情報を健康確保上の配慮を行う以外の目的で使用してはならない、としています(6(3)ウ)。
ただし、個別の職場で不利益が起きないとまでは言い切れません。本記事が示せるのは、指針がそう定めている、というところまでです。
精神障害の労災の支給決定は、医療・介護の業種が上位です
ここからは数字です。厚生労働省が令和8年7月15日に公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」の別添資料2(業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況)を使います。
令和7年度の精神障害の請求件数は4,958件、支給決定件数は1,082件でした(表2-1)。業種の大分類では「医療、福祉」が請求1,288件、支給決定292件で、どちらも最も多い業種です(表2-2)。
中分類で見ると、上位の2つはどちらも「医療、福祉」の中の業種です。
| 順位 | 業種(中分類) | 支給決定件数 | 請求件数 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 社会保険・社会福祉・介護事業 | 151件 | 706件(1位) |
| 2位 | 医療業 | 139件 | 578件(2位) |
| 3位 | 道路貨物運送業 | 68件 | 202件(3位) |
出典:厚生労働省 令和7年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2 表2-2-1(請求件数の多い業種)・表2-2-2(支給決定件数の多い業種)。いずれも中分類の上位15業種の表
職種で見ると、中分類の「保健師,助産師,看護師」が、請求369件・支給決定105件で、どちらも2位でした。支給決定の1位は一般事務従事者の109件、3位は介護サービス職業従事者の68件です。
| 順位 | 職種(中分類) | 支給決定件数 | うち女性 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 一般事務従事者 | 109件 | 81件 |
| 2位 | 保健師,助産師,看護師 | 105件 | 99件 |
| 3位 | 介護サービス職業従事者 | 68件 | 55件 |
出典:同 表2-3-2(支給決定件数の多い職種・中分類の上位15職種)
繰り返しになりますが、これは件数です。働く人の数で割った割合は、この資料には載っておらず、本記事も計算していません。「保健師,助産師,看護師」は3つの職種をまとめた区分で、看護師だけの件数ではありません。
支給決定の出来事で多いのは、パワーハラスメントです
同じ資料の表2-8は、精神障害の発病に関与したと考えられる「出来事」の類型ごとに、支給決定件数を並べています。こちらは全業種の件数で、医療業だけの内訳ではありません。
| 具体的な出来事 | 令和7年度の支給決定件数 |
|---|---|
| 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた | 222件 |
| 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた | 127件 |
| セクシュアルハラスメントを受けた | 127件 |
| 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった | 113件 |
出典:同 表2-8(出来事別決定及び支給決定件数一覧)
「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」は、令和6年度の108件から127件に増えています。病院でいえば、患者や家族からの言動が入りうる区分です。ただし、この表から医療の職場の件数を取り出すことはできません。
患者や家族からの迷惑行為に対して事業主が講じる措置は、病院のカスハラ対策を伝えたニュースで扱っています。
医療,福祉の事業所で、対策に取り組んでいるのは68.5%
職場の側は、どこまで取り組んでいるのか。厚生労働省の令和7年「労働安全衛生調査(実態調査)」の事業所調査 第3表が、産業別に示しています。
| 区分 | 全産業 | 医療,福祉 |
|---|---|---|
| メンタルヘルス対策に取り組んでいる | 63.0% | 68.5% |
| メンタルヘルス対策に取り組んでいない | 33.3% | 28.8% |
出典:厚生労働省 令和7年「労働安全衛生調査(実態調査)」事業所調査 第3表 構成比1(全事業所=100)。残りは「不明」
取り組んでいる医療,福祉の事業所を100とすると、取組内容(複数回答)の一部はこうなっています。
| 取組内容 | 医療,福祉(取り組んでいる事業所=100) |
|---|---|
| メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備 | 43.7% |
| 地域産業保健センター(地域窓口)を活用したメンタルヘルス対策の実施 | 5.5% |
| 産業保健総合支援センターを活用したメンタルヘルス対策の実施 | 3.6% |
出典:同 第3表 構成比2(メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所=100)
この調査の対象は、常用労働者10人以上を雇用する民営事業所です。国や自治体が開設する病院は入っていません。また、ここでいう医療,福祉は病院・診療所に限らず、介護や保育などの事業所を含む産業の区分です。
「取り組んでいる」職場でも、事業所内の相談体制の整備まで進んでいるのは半分に届きません。職場の外の窓口を知っておく意味は、ここにあります。
職場の中と外に、相談できる先があります
指針は、職場の中では話しにくい場合も想定しています。
「また、労働者が事業場内での相談等を望まないような場合にも、事業場外資源を活用することが効果的である。」
出典:同指針 5(4)事業場外資源によるケア(原文どおり)
4つのケアに沿って、看護師が使える相談先を並べます。
- 職場の中:上司、産業医、保健師等、職場の相談窓口。指針はラインによるケアと事業場内産業保健スタッフ等によるケアとして、相談対応をこれらの人に求めています。
- こころの耳(厚生労働省):働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト。トップページに「匿名で無料で相談できます」とあり、電話・SNS・メールの相談窓口が案内されています こころの耳/相談窓口案内
- 地域産業保健センター(地域窓口):独立行政法人労働者健康安全機構の説明では、労働者数50人未満の小規模事業場の事業者や労働者に対して原則として無料で事業を行い、健康相談窓口ではメンタルヘルスに関することなどについて医師や保健師が健康相談に応じます 地域窓口(地域産業保健センター)
- 産業保健総合支援センター:同機構の説明では、主な相手は産業医、衛生管理者、産業看護職、人事労務担当者等の産業保健関係者です。職場の担当者に、使える支援として伝える先と考えると位置づけがわかります 産業保健とは
- 総合労働相談コーナー(厚生労働省):いじめ・嫌がらせなど労働問題全般の相談先です 総合労働相談コーナーのご案内
小規模事業場について、指針は「地域産業保健センター等の事業場外資源の提供する支援等を積極的に活用し取り組むことが望ましい」としています(9)。クリニックなど人数の少ない職場では、ここが外の窓口になります。
心や体の不調が続いているときは、相談と並行して医療機関の受診を検討してください。こころの耳のサイトには、精神科・心療内科などの医療機関を探す全国医療機関検索もあります。
インシデントのあとに落ち込んだときは、医療安全の側の資料にも支えの記述があります。国の医療安全管理者の業務指針は、医療事故発生時の対応の1つに「医療事故に関与した職員の精神的支援等」を挙げており、インシデントで落ち込む看護師へ|報告は省令が病院に求める仕組み。国の通知は、原因の分析を「個人の責任追及を行うものではない」と書いていますで扱っています。
この記事が扱っていないこと
- 病気の診断・治療、休職や復職の判断。医療的な助言は扱っていません。
- ストレスチェック制度の条文の中身。事業者の実施義務と規模の線は保育士の人間関係に悩んだとき、実施者に看護師が入る条文は産業看護師の仕事内容で扱っています。
- 働く人の数に対する労災の発生率。本記事が取得した資料に載っておらず、計算していません。
- 医療業に限った出来事別の件数。表2-8は全業種の件数で、業種別の内訳を取得していません。
- 労災の請求の手続や認定基準の中身。本記事は取得していません。
- 民間の団体や病院団体の調査。国の資料だけで構成しています。
看護師が職場で確認できること
- 心の健康づくり計画があるか。指針は、衛生委員会等で調査審議して策定することを事業者に求めています。
- 職場の相談窓口はどこか、誰が担当か。推進担当者に人事権を有する者を選任することは適当でない、と指針は書いています。
- 上司向けの教育研修があるか。ラインによるケアに関する教育研修・情報提供は、事業者が管理監督者に行うものとされています。
- 休業した人の職場復帰支援プログラムがあるか。指針は策定と周知を挙げています。
- 職場の外の窓口が知らされているか。指針は教育研修の内容に「事業場内の相談先及び事業場外資源に関する情報」を入れています。
よくある質問
Q. 看護師はメンタルヘルス不調になりやすいのですか。
A. 本記事が使った資料からは言えません。令和7年度の精神障害の労災の支給決定件数は「保健師,助産師,看護師」で105件と職種別で2位でしたが、これは件数で、働く人の数で割った割合ではありません。不調が続くときは、医療機関の受診を検討してください。
Q. 職場で相談すると、評価や配置に響きませんか。
A. 指針は、心の健康に関する情報を理由とした解雇、契約の更新をしないこと、退職勧奨、不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換などを、事業者が行ってはならないものとして挙げています。個別の職場で起きないとまでは言い切れないため、職場の中で話しにくいときは、こころの耳など外の窓口も使えます。
Q. 小さなクリニックで、産業医も保健師もいません。
A. 指針は、常時使用する労働者が50人未満の小規模事業場では、地域産業保健センター等の事業場外資源の支援を積極的に活用することが望ましいとしています。地域産業保健センターは、50人未満の事業場の労働者にも、医師や保健師による健康相談を原則として無料で行っています。
Q. 患者さんや家族からの言動がつらいです。
A. 労災の出来事別の表では、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」の支給決定が令和7年度に127件ありました(全業種)。一人で抱えず、職場の相談窓口や、こころの耳の電話・SNS・メール相談を使ってください。事業主が講じる措置は、病院のカスハラ対策を伝えたニュースで扱っています。
迷ったらここ
職場の相談先を先に確かめる
国の指針は、心の健康づくりを4つのケアで進め、相談体制などを事業者が整えることとしています。精神障害の労災の支給決定は、医療業で139件でした。
- 職場の相談窓口はどこか、担当者に人事権がないか
- 心の健康づくり計画と、上司向けの教育研修があるか
- 休業した人の職場復帰支援プログラムがあるか
まとめ
職場の心の健康づくりについて、国の指針は「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つのケアを挙げ、心の健康づくり計画や相談体制などを事業者が整えることとして書いています。
令和7年度の精神障害の労災の支給決定件数は、業種の中分類で社会保険・社会福祉・介護事業が151件、医療業が139件で1位と2位、職種の中分類では「保健師,助産師,看護師」が105件で2位でした。いずれも件数で、なりやすさを示す割合ではありません。
指針は、職場の中で相談しにくい場合にも事業場外資源の活用が効果的だとしています。こころの耳や地域産業保健センターなど、職場の外にも窓口があります。不調が続くときは、医療機関の受診を検討してください。

