30秒でわかるまとめ
- 産業看護師は産業医が来ない日の窓口です産業医は多くの事業場で月1回程度の訪問のため、相談対応や記録、他職種への連携を担います
- 産業看護師という職名は法令にありません労働安全衛生法の条文に「看護師」という語は一度も出てこず、出てくるのは規則の2か所だけです
- 事業所で働く看護師は看護師全体の0.4%です事業所で働く看護師は5,879人で、看護師全体1,363,142人の0.4%にあたります
- ストレスチェック実施者には研修が必要です医師・保健師は資格のみで実施者になれますが、看護師は厚生労働大臣が定める研修の修了が必要です
※保健師になる制度そのもの(国家試験を2つ通す構造、受験資格、就業場所の内訳)は保健師になるには|国家試験を2つ通す必要がありますで扱っています。この記事は看護師が産業保健の現場でどこに立つかだけを扱います。

まず確認:法律に「看護師」は出てきません
求人票には「産業看護師」「企業内看護師」という言葉が並びます。しかし労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)を全文検索しても、「看護師」という語は1か所も見つかりません。
| 法令 | 「看護師」の登場 | 「保健師」の登場 |
|---|---|---|
| 労働安全衛生法 | 0条 | 2条(第66条の7、第66条の10) |
| 労働安全衛生規則 | 2条(第52条の10、第52条の21) | 3条(第15条の2、第52条の10、第52条の21) |
出典:e-Gov法令API で取得した労働安全衛生法(法令ID 347AC0000000057)・労働安全衛生規則(同 347M50002000032)の全条文を編集部が検索
「産業看護師」という職名も、当然ながら条文にはありません。准看護師と「正看護師」の関係と同じで、現場と求人の側で使われている呼び方です。似た構造の話は准看護師と正看護師の違い|法律が分けているのは「指示を受けて」の1点ですでも扱っています。
これは「看護師が産業保健で働けない」という意味ではありません。働き方の位置づけが、法令上は保健師と別だという意味です。ここを取り違えると、求人票の読み方を間違えます。

行政で働く保健師の場合は、根拠になる法律そのものが変わります。地域保健法と母子保健法が定めている仕事の範囲は保健師の仕事内容|地域保健法の14事業と、母子保健法の5か条ですで扱っています。
法律が名指しするのは「医師」と「保健師」です
産業保健の担い手について、労働安全衛生法はこう組み立てています。
| 条文 | 場面 | 名指しされている職種 | 義務の強さ |
|---|---|---|---|
| 第13条第1項 | 産業医の選任(常時50人以上の事業場) | 医師 | 義務 |
| 第13条の2第1項 | 50人未満の事業場の健康管理等 | 医師+厚生労働省令で定める者 | 努力義務 |
| 労働安全衛生規則 第15条の2第1項 | 上の「省令で定める者」の中身 | 保健師 | — |
| 第66条の7第1項 | 健康診断後の保健指導 | 医師又は保健師 | 努力義務 |
出典:労働安全衛生法 第13条、第13条の2、第66条の7/労働安全衛生規則 第15条の2/産業医の選任規模は労働安全衛生法施行令 第5条
条文を1つずつ見ます。
産業医の選任。第13条第1項が対象とする事業場の規模は、労働安全衛生法施行令 第5条が「常時五十人以上の労働者を使用する事業場」と定めています。ここに置かれるのは医師です。
50人未満の事業場。第13条の2第1項は「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない」としています。そしてその「省令で定める者」を、労働安全衛生規則 第15条の2第1項がこう定めています。
「法第十三条の二第一項の厚生労働省令で定める者は、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する保健師とする。」
ここに看護師は入っていません。省令が指定したのは保健師だけです。
保健指導。第66条の7第1項は、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し「医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない」と定めています。ここでも職種は2つに絞られています。

ここが本題:看護師が出てくるのは省令の2か所だけです
では看護師はどこに出てくるのか。労働安全衛生規則の2つの条文です。どちらもストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)に関するものです。
1つめ:第52条の10(検査の実施者等)
労働安全衛生法 第66条の10第1項は、検査を行う者を「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」としています。その「省令で定める者」の中身が、労働安全衛生規則 第52条の10第1項です。
| 号 | 実施者になれる者 | 研修の要否 |
|---|---|---|
| 第1号 | 医師 | 不要 |
| 第2号 | 保健師 | 不要 |
| 第3号 | 歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師 | 「検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるもの」の修了が必要 |
出典:労働安全衛生規則 第52条の10第1項
医師と保健師は資格だけで実施者になれますが、看護師は研修を修了して初めて実施者になれます。この一段の差が、産業保健における看護師の法令上の位置を表しています。
同条第2項には、職種と関係なく効く制限もあります。
「検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。」
2つめ:第52条の21(検査及び面接指導結果の報告)
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、検査と面接指導の結果等を所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません。その報告事項の第6号が、検査を実施した者の区分です。
- イ:事業者が選任した産業医
- ロ:当該事業場に所属する医師(イの産業医以外)、保健師、歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
- ハ:検査を委託した医師、保健師、歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
出典:労働安全衛生規則 第52条の21第1項第6号
つまり看護師の名前が条文に出てくるのは、「ストレスチェックを実施できる者」としてと、「実施した者として報告に書かれる区分」としての2回だけです。それ以外の産業保健の条文に、看護師は登場しません。
なお、ストレスチェックを事業者が実施する義務の側(50人未満の事業場では当分の間の努力義務にとどまること)は保育士の人間関係に疲れたら|それは法律上、事業主が対処すべきことですで条文から扱っています。この記事は実施する側の要件だけを扱います。
数字で見る:事業所で働く看護師は5,879人、全体の0.4%
条文の構造は、実際の人数にもそのまま出ています。
| 職種 | 就業者総数 | うち事業所 | 構成割合 |
|---|---|---|---|
| 保健師 | 63,536人 | 5,045人 | 7.9% |
| 看護師 | 1,363,142人 | 5,879人 | 0.4% |
| 准看護師 | 233,022人 | 1,066人 | 0.5% |
| 助産師 | 38,721人 | 61人 | 0.2% |
出典:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」表2(令和6年12月31日現在・実人員)
読み方は2つあります。
1つめ。実数ではほとんど並んでいます。事業所で働く看護師5,879人と保健師5,045人の差は834人。産業保健の現場に、両者は同じくらいの人数がいます。
2つめ。職種の中での比率はまったく違います。保健師は全体の7.9%が事業所にいるのに対し、看護師は0.4%。看護師の65.7%(895,944人)は病院にいます。産業保健は、看護師にとっては例外的な進路です。
保健師側から見た同じ数字は保健師になるには|国家試験を2つ通す必要がありますで扱っています。
では何をする仕事なのか:条文は「体制」を求めています
看護師を名指しした条文が2か所しかないなら、産業看護師の仕事はどこに根拠を持つのか。職種を限定していない条文の側です。
| 条文 | 事業者に求められていること | 職種の限定 |
|---|---|---|
| 法第13条の3 | 産業医等が労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努める | なし |
| 法第69条第1項 | 労働者に対する健康教育及び健康相談その他健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努める | なし |
| 法第69条第2項 | 労働者は、事業者が講ずる措置を利用して健康の保持増進に努める | — |
出典:労働安全衛生法 第13条の3、第69条
第13条の3は「体制の整備」という言葉を使っています。産業医は多くの事業場で嘱託(月1回程度の訪問)です。その間を埋めて、相談を受け、記録を残し、必要なときに産業医や保健師につなぐ——条文が求めている「体制」の実務部分が、産業看護師の仕事にあたります。
第69条第1項の「継続的かつ計画的に」も同じ方向です。健康教育や健康相談は、単発の行事ではなく年間の計画として組む必要があります。
ただし、この2つはどちらも努力義務です。条文が「講ずるように努めなければならない」としている以上、どこまでやるかは事業場によって大きく違います。求人票の「産業看護師」が何を指しているかは、会社ごとに確かめるしかありません。
なお、産業保健の条文で名指しされている保健師の側の給与は、平均だけでなく分布からも読めます。保健師の年収は一直線に上がりません|30代前半で9,300円下がりますで扱っています。
条文の外には、国が公表した指針があります。事業場内産業保健スタッフとして何を期待されているのかと、取組の幅が事業場ごとに違う理由は産業看護師のやりがい|指針が期待する役割は書いてありますで扱っています。
求人を見るときに確認できること
1. 事業場の規模を「常時50人以上か」で聞く
50人以上なら産業医の選任が義務で(法第13条第1項・施行令第5条)、ストレスチェックの結果報告も義務です(規則第52条の21)。50人未満だと、健康管理等を行わせること自体が努力義務にとどまります。体制がどこまで整っているかは、この線でかなり変わります。
2. ストレスチェックの実施者研修を受けられるかを聞く
看護師が実施者になるには「厚生労働大臣が定める研修」の修了が要ります(規則第52条の10第1項第3号)。入職後に会社が受講を支援するのか、既修了者を求めているのかで、任される範囲が変わります。
3. 産業医・保健師との分担を聞く
保健指導は法律上「医師又は保健師」の役割として書かれています(法第66条の7第1項)。実務でどこまで担当するのか、誰の判断で動くのかを、入職前に言葉にしてもらってください。
4. 人事上の位置を確認する
規則第52条の10第2項は、解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ監督的地位にある者を検査の実施事務から外しています。健康情報を扱う立場と人事の立場は、条文の上でも分けられています。所属部署と報告ラインを確認してください。
5. 保健師の資格取得まで視野に入れるか決める
条文の構造上、産業保健で職種として名指しされるのは保健師です。看護師免許を持っていれば保健師課程は1年以上の学科で進めますが、在学中の収入と学費という現実的な条件があります。制度の中身は保健師になるには|国家試験を2つ通す必要がありますで扱っています。
よくある質問
Q. 産業看護師になるのに必要な資格はありますか。
A. 看護師免許のほかに、法令が一律に求めている資格はありません。そもそも労働安全衛生法に「産業看護師」という職名がないため、選任要件も置かれていません。ただしストレスチェックの実施者になる場合は、規則第52条の10第1項第3号により厚生労働大臣が定める研修の修了が必要です。個別の企業が独自の要件を設けているかどうかは、本記事では確認していません。
Q. 看護師のまま保健指導を担当できますか。
A. 法第66条の7第1項が保健指導の担い手として挙げているのは「医師又は保健師」です。看護師は条文に挙げられていません。実務上どのような分担が行われているかについては、本記事では条文以外の資料を確認していないため書いていません。担当範囲は入職前に会社へ確認してください。
Q. 病院勤務と比べて夜勤はどうなりますか。
A. 勤務形態は事業場ごとに決まるもので、法令に定めはありません。本記事では個別企業の勤務条件を確認していないため、断定できません。なお夜勤そのものに用意された制度(深夜割増、年2回の健康診断、自発的健康診断)は看護師の夜勤がきついとき|夜勤する人だけに用意された3つの制度で条文から整理しています。求人票の勤務時間帯と、そこに深夜業が含まれるかを確認してください。
迷ったらここ
職種名ではなく「規模・研修・分担」の3点で求人を読む
産業保健の条文は看護師の仕事内容を定めていません。決まっているのは事業場の側の体制で、しかも法第13条の3も第69条も努力義務です。同じ「産業看護師」でも中身が会社ごとに違うのは、そのためです。
- 事業場は常時50人以上か(50人以上なら産業医の選任とストレスチェックの結果報告が義務)
- ストレスチェックの実施者研修を受けられるか(規則第52条の10第1項第3号の修了要件)
- 産業医・保健師との分担はどうなっているか(保健指導は条文上「医師又は保健師」)
まとめ
- 労働安全衛生法の条文に「看護師」は0か所。「保健師」は2条(第66条の7、第66条の10)に出てくる
- 看護師が名指しされるのは労働安全衛生規則の2か所だけ(第52条の10、第52条の21)。いずれもストレスチェック関連
- 実施者になるには厚生労働大臣が定める研修の修了が条件(規則第52条の10第1項第3号)。医師・保健師は資格のみで足りる
- 事業所で働く看護師は5,879人・全体の0.4%。保健師5,045人とは834人差だが、保健師にとっては7.9%にあたる
- 仕事の根拠は職種を限定していない条文にある。法第13条の3の「体制の整備」と法第69条第1項の「継続的かつ計画的に」。ただしどちらも努力義務
産業看護師の仕事内容は、法令から一意には決まりません。決まっているのは「看護師にできること」の外枠だけで、中身は事業場ごとに違います。だから求人を読むときは、職種名ではなく規模・研修・分担の3点を確かめてください。

