30秒でわかるまとめ
- 看護師を守るカスハラ対策が10月1日から義務になります改正法の施行で、患者や家族からの著しい迷惑行為に備える措置を、病院などの事業主が講じなければならなくなります。
- 事業主に求められる措置は5つあります方針を決めて周知すること、相談窓口を整えること、起きたあとに速やかに対応することなどです。
- 対策に取り組む職場ほど被害の経験が少ない結果です国の調査では、勤務先が積極的に取り組んでいる人の経験は12.8%、あまり取り組んでいない人は23.1%でした。
- 病院の夜勤は16時間以上の二交代が66.0%です9月14日の国の検討会に出された資料で、全国の病院への調査の結果です。
厚生労働省の「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」が2026年9月14日に開かれ、看護職員の勤務環境改善が議題になった。資料には、病院の夜勤の実態と並んで、10月1日から事業主に義務づけられるカスタマーハラスメント対策が載っている。ここでは当日公表の資料を読み、看護師として働く人・これから移る人から見て何が変わるのかを整理する。
国の検討会が勤務環境を議論した
この検討会は、2040年を見据えて看護職員をどう育て、どう確保するかを話し合う場である。第5回のテーマが勤務環境の改善だった。看護職員の就業者数は2023年に174.6万人まで増えているが、資料はそのうえで働き続けられる環境づくりを課題に挙げている。
資料の冒頭には、これまでの会議で委員から出た意見がまとめられている。そのなかに、次の一文がある。
時間外勤務については、前残業や時間外労働を申請できないケースなどがあり、実態はデータ以上に厳しい状況がある。
記録に残る残業時間より、実際の負担は重いという指摘が、国の資料に書き込まれている。「DXや業務改善が直ちに人員の削減につながるものではない」という意見も並んでいる。
勤務環境の話は、毎回同じことが言われている気がします。
今回は、日付の決まった話がひとつ入っているんだ。
議論ではなく、もう決まっていることがあるんですね。
16時間以上の夜勤が66.0%
その前に、資料が示した夜勤の実態を見ておく。全国の病院8,022施設の看護部長に聞いた日本看護協会の病院看護実態調査で、2025年10月1日時点の状況である。
| 最も多くの看護職員に適用されている夜勤形態 | 割合 |
|---|---|
| 二交代制(夜勤1回あたり16時間以上) | 66.0% |
| 三交代制(変則含む) | 16.6% |
| 二交代制(夜勤1回あたり16時間未満) | 14.3% |
出典:厚生労働省「看護職員の勤務環境改善について」(第5回検討会 資料1)。元の調査は日本看護協会「病院看護実態調査」、回答3,502施設
3つの病院のうち2つで、主な夜勤は1回16時間以上の二交代ということになる。
資料はあわせて、夜勤をしていない理由も年代別に示している。20〜40代では「子どもの世話」が多く、50〜60代では「看護管理者の職位にあるため」に次いで「健康上の理由」が多い。退職理由は「子育て」「結婚」「転居」の順だった。
この割合は病院ごとに「最も多くの看護職員に適用されている形態」を1つ答えたものである。看護師1人ひとりの割合ではない。
10月1日からカスハラ対策が義務に
ここからが日付の決まった話である。令和7年6月11日に公布された改正法(令和7年法律第63号)で、カスタマーハラスメントを防止するための措置が事業主に義務づけられた。施行は令和8年10月1日で、あと2週間あまりである。
カスタマーハラスメントは、顧客や施設の利用者など、事業に関係する人の言動のうち、社会通念上許される範囲を超えて働く人の就業環境を害するものを指す。病院なら、患者や家族からの著しい迷惑行為がこれにあたる。
検討会の資料は、これを「医療分野のカスタマーハラスメント対策」として取り上げた。厚生労働省は令和8年度、業界ごとの対策づくりを支援するモデル事業を医療業を対象に行うとしている。医師会や看護協会などの団体が、業界共通の対応方針をつくる形である。
義務の対象は病院に限らない。介護施設や保育所を含め、人を雇う事業主すべてにかかる。
事業主に求められる措置は5つ
事業主が講じるべき措置は、国の指針で次の5つに整理されている。
| 措置 | 主な内容 |
|---|---|
| ①方針 | 毅然と対応し働く人を守る方針を決め、職員に知らせる |
| ②相談体制 | 相談窓口を知らせる。該当するか微妙な場合も広く相談を受ける |
| ③事後対応 | 事実を速やかに確認し、被害者に配慮し、再発を防ぐ |
| ④抑止 | 特に悪質な場合の対処方針を前もって決め、対応できる体制を整える |
| ⑤併せて | プライバシーを守る。相談したことで不利益に扱わないと定め、知らせる |
出典:厚生労働省「医療分野のカスタマーハラスメント対策について」(第5回検討会 資料4)
働く側から見て大きいのは②と⑤である。「該当するかどうか微妙な場合」でも相談を受けること、そして相談したことを理由に解雇などの不利益な扱いをしないと定めることが、事業主の側の義務になる。
患者さんのことで相談すると、自分の評価が下がりそうで言いにくかったです。
そこを不利益に扱わないと決めることも、措置の中に入っているよ。
微妙なときも相談を受ける、とまで書いてあるんだ。
我慢するかどうかを、1人で決めなくてよくなるんですね。
取り組む職場ほど被害が少ない
資料4には、厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)の結果も載っている。医療に限らない全業種の調査である。
| 勤務先の取り組み | 迷惑行為を 経験した人 |
|---|---|
| 積極的に取り組んでいる | 12.8% |
| 取り組んでいる | 12.2% |
| あまり取り組んでいない | 23.1% |
出典:同上。過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けた経験
勤務先があまり取り組んでいない人は、積極的に取り組んでいる職場の人の1.8倍、被害を経験していた。接する頻度でも差があり、顧客とほとんど接しない人は5.3%、勤務日にほぼ毎日接する人は17.4%だった。患者と毎日向き合う看護師は、後者にあたる。
企業側の調査では、迷惑行為の相談件数が過去3年で「増えている」が23.2%、「減っている」が11.4%だった。迷惑行為で企業が受けた損害として「労働者の休職・離職」を挙げた企業は22.6%ある。
この調査は全業種を対象にしたもので、病院だけの数字ではない。医療業に絞った実態の調査は、令和8年度のモデル事業で行うとされている。
国が示した論点は4つ
資料1の最後に、今後の議論の論点が並んでいる。
- 多様で柔軟な働き方を広げるために、さらにどんな取り組みが考えられるか
- 職種ごとの専門性を活かしたタスク・シフト/シェアをどう進めるか
- ICT機器による看護業務の効率化をどう広めるか
- 勤務環境改善を進められる看護管理の力を、どう支援して高めるか
出典:同 資料1
いずれも「どのような取組が考えられるか」という問いの形で、まだ何も決まっていない。
編集部の見方:窓口があるかを聞ける
ここからは編集部の見方である。
この日の資料で、看護師にとって実際に効くのはカスハラ対策の義務化である。夜勤や働き方の論点はまだ問いの段階だが、カスハラ対策は10月1日から事業主の義務になる。
義務になるということは、職場を選ぶときに確かめられる項目が増えるということでもある。方針は決まっているか、相談窓口はどこか、悪質な場合にどう動くかは、10月以降は「ない」とは言いにくい質問になる。国の調査で、取り組んでいない職場ほど被害の経験が多かったことを考えると、ここは給与と同じくらい見ておいてよい。
一方で、夜勤は3つの病院のうち2つで1回16時間以上である。カスハラ対策が整っても、夜勤の形は変わらない。2つは別々に確かめる必要がある。
なお、義務化されても、各病院が実際にどこまで整えるかは、公表された資料からは分からない。
面接でハラスメントのことを聞くのは、気が引けていました。
10月からは法律で決まった措置だからね。答えが用意されている問いだよ。
迷ったらここ
患者や家族からの迷惑行為に、職場がどう動くかを聞く
10月1日から、カスハラ対策は事業主の義務です。国の調査では、勤務先があまり取り組んでいない人の被害経験は23.1%で、積極的に取り組んでいる職場の12.8%を大きく上回りました。
- カスハラへの方針は決まっていて、職員に知らされているか
- 相談窓口はどこか。判断に迷う場合でも相談できるか
- 主な夜勤は二交代か三交代か。1回あたり何時間か
出典
一次資料
- 厚生労働省「第5回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:資料」2026年9月14日開催(2026年9月14日参照)
- 同 資料1「看護職員の勤務環境改善について」。夜勤形態の割合、退職理由、委員の意見のまとめ、論点はここにある。夜勤形態の元の調査は日本看護協会「病院看護実態調査」
- 同 資料4「医療分野のカスタマーハラスメント対策について」。改正法の施行日、事業主が講ずべき5つの措置、令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」の結果、医療業向けの支援はここにある
編集部メモ
- 数値はすべて検討会の資料から直接取り、編集部で計算し直して確かめています。夜勤形態の表は、そのまま読むと件数と項目が1行ずれていました。そこで件数を合計3,502で割り戻し、資料の地の文にある66.0%・16.6%・14.3%と一致する組み合わせを確かめてから、行の対応を決めています。
- 帯グラフの数値は、1本ごとに内訳を足すと100%に戻ることを確認しました。値と項目を取り違えていないことの確認です。
- 「1.8倍」は割り算で出した数字です。23.1%を12.8%で割ったもので、原本にそのままの記載はありません。
- ⚠ カスハラの調査は全業種を対象にしたもので、医療業だけの数字ではありません。本文にもそう書きました。医療業に絞った実態の把握は、令和8年度のモデル事業で行うとされています。
- ⚠ 夜勤形態の割合は、病院ごとに「最も多くの看護職員に適用されている形態」を1つ答えたものです。看護師1人ひとりのうち何割が16時間夜勤か、を示す数字ではありません。
- 5つの措置は国の指針にもとづく概要です。本文の表は資料4の記述を短くまとめたもので、指針の全文ではありません。
- 検討会の論点は、いずれも「どのような取組が考えられるか」という問いの形です。何かが決まったわけではありません。
- 義務化のあと各病院が実際にどこまで措置を整えるかは、公表資料からは分かりません。本記事では扱っていません。
- 報道各社の記事は参照していません。数値も記述も、すべて厚生労働省の資料から取っています。
- この検討会は今後も続きます。勤務環境について何が決まったかを、改めて取り上げる予定です。

