30秒でわかるまとめ
- 保育士の人間関係への対応は、事業主の義務になっています労働施策総合推進法は、相談に応じ適切に対応する体制の整備を事業主の義務とし、事業所の規模を問わず対象としています。
- 相談したことを理由にした不利益な扱いは禁止です労働施策総合推進法第30条の2第2項は、相談や事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。
- 同じ悩みの相談は年間54,987件あります厚生労働省によると、令和6年度に労働局へ寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談は13年連続で最多でした。
- 日付と言葉を書き残しておくと、あとで役に立ちますこころの耳や総合労働相談コーナーは無料で相談でき、日付や言葉をその日のうちに書き残しておくと後で役立ちます。

「疲れた」は感情ではなく、状態の報告です
人間関係で疲れているとき、多くの人はまず自分を疑います。「私が気にしすぎなのかもしれない」「もっとうまく立ち回れる人もいるのに」。
ただ、その見方には抜けているものがあります。職場の人間関係をどう保つかは、法律上、事業主の側に課された仕事だという点です。
この記事では、感情の整理ではなく制度の話をします。何が事業主の義務として決まっているのか。相談したらどうなるのか。園の中で解決しないとき、外にどこがあるのか。この3つです。
なお、保育士が辞めたいと考える理由の全体像(給料と人間関係のどちらで人が辞めているか)は「保育士を辞めたい」と思ったらで扱っています。この記事は人間関係だけを、制度の側から見ます。

職場の人間関係は、法律上「事業主が対処すべきこと」になっています
根拠になるのは、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)です。第30条の2はこう定めています。
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」(第30条の2第1項)
この条文を分解すると、3つの要素が出てきます。
| 条文の要素 | 意味 |
|---|---|
| 優越的な関係を背景とした言動 | 上司・先輩からのものに限らない。抵抗や拒絶が難しい関係性を背景にしたもの |
| 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの | 指導との線引きはここ。必要性と相当性の両方で判断される |
| 就業環境が害されることのないよう | すでに起きたことへの対処だけでなく、起きないようにすることが求められている |
そして義務の中身は「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じ」ることです。相談窓口を置くことが、法律の文言に含まれています。
もう1つ、重要な規定があります。
「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」(第30条の2第2項)
相談したこと、事実を述べたことを理由に不利益な扱いをすることは禁じられています。「言ったら居づらくなる」という不安は当然のものですが、法律はその不安に対して条文で答えを置いています。
なお、この措置義務には中小事業主向けの経過措置が置かれていましたが、改正法の公布(令和元年)から3年を超えない範囲と定められており、すでに経過しています(令和元年法律第24号 附則第3条)。いまは事業主の規模を問わず義務です。小規模な園だから対象外、ということはありません。

保護者からの苦情も、施設と経営者が受け止める仕組みです。社会福祉法 第82条は経営者に苦情の適切な解決に努めることを求めており、苦情解決責任者・苦情受付担当者・第三者委員の形は保育士の保護者対応とクレーム|苦情の窓口を置くことは、国の基準が施設に求めていますで扱っています。
事業主には、努力義務として置かれているものもあります
同じ法律の第30条の3は、義務ではなく努力義務として次の内容を定めています。義務と努力義務は効力が違うので、分けて理解しておく価値があります。
| 条項 | 対象 | 内容 | 強さ |
|---|---|---|---|
| 第30条の2第1項 | 事業主 | 相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置 | 義務 |
| 第30条の2第2項 | 事業主 | 相談等を理由とする不利益取扱いの禁止 | 禁止 |
| 第30条の3第2項 | 事業主 | 労働者の関心と理解を深め、他の労働者への言動に注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮 | 努力義務 |
| 第30条の3第3項 | 事業主(法人の場合は役員) | 自らも関心と理解を深め、労働者への言動に注意を払う | 努力義務 |
| 第30条の3第4項 | 労働者 | 関心と理解を深め、他の労働者への言動に注意を払い、事業主の措置に協力する | 努力義務 |
出典:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第30条の2、第30条の3
ここで確認しておきたいのは、「研修をやっているか」は努力義務、「相談体制があるか」は義務という区別です。園に研修がないこと自体は法律違反ではありませんが、相談に応じる体制がないことは、義務を果たしていない状態にあたります。
ストレスチェックは「50人」で扱いが変わります
心身の疲れを測る仕組みとして、労働安全衛生法にストレスチェック制度があります。ただしここには規模の線があります。
労働安全衛生法 第66条の10第1項は、事業者に対して医師・保健師等による「心理的な負担の程度を把握するための検査」を行わなければならないと定めています。しかし同法の附則第4条が、こう読み替えています。
「第十三条第一項の事業場以外の事業場についての第六十六条の十の規定の適用については、当分の間、同条第一項中『行わなければ』とあるのは、『行うよう努めなければ』とする。」
第13条第1項の事業場とは産業医を選任すべき事業場のことで、その規模は「常時五十人以上の労働者を使用する事業場」と政令で定められています(労働安全衛生法施行令 第5条)。
| 事業場の規模 | ストレスチェック | 産業医の選任 |
|---|---|---|
| 常時50人以上 | 義務 | 義務 |
| 50人未満 | 当分の間、努力義務 | — |
ここは「事業場」単位で数えます。法人全体ではなく、園ごとです。自分の園の職員数が50人以上かどうかで、ストレスチェックが義務なのか努力義務なのかが変わります。まず自分の園がどちら側かを確認してください。
そして押さえておきたいのは、この規模の線があるのはストレスチェックの話であって、前章の相談体制の整備義務には規模の線がないということです。2つを混同しないでください。
相談は年間54,987件。あなただけではありません
厚生労働省は毎年、労働局に寄せられた相談の集計を公表しています。令和6年度分はこうです。
| 項目 | 件数 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 総合労働相談 | 1,201,881件 | 0.7%減(5年連続で120万件超) |
| うち 民事上の個別労働関係紛争の相談 | 267,755件 | 0.6%増 |
| うち いじめ・嫌がらせ | 54,987件 | 8.5%減(13年連続で最多) |
| 助言・指導の申出 | 8,865件 | 5.9%増 |
| あっせんの申請 | 3,867件 | 4.9%増 |
出典:厚生労働省「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」令和7年6月25日公表(令和7年10月28日一部数値修正)
「いじめ・嫌がらせ」は13年連続で相談内容の最多です。件数は前年度から8.5%減っていますが、それでも年間54,987件。1日あたりにすると150件を超えます(編集部算出)。
この制度には3つの入口があります。
- 総合労働相談……都道府県労働局、労働基準監督署、駅近隣の建物など379か所(令和7年4月1日現在)に設置された総合労働相談コーナーで、専門の相談員が対応します
- 助言・指導……都道府県労働局長が、紛争の当事者に対して行うもの(令和6年度の申出は8,865件)
- あっせん……紛争調整委員会が間に入るもの(令和6年度の申請は3,867件)
相談は120万件あるのに、助言・指導は8,865件、あっせんは3,867件。ほとんどの人は「相談する」ところで止まっています。それでかまいません。相談だけして、状況を整理して終わることも制度の使い方です。
働いた時間の記録は、本来は園の側が付けるものとされています。労働時間かどうかが就業規則の定めではなく指示で決まることは保育士の持ち帰り仕事|労働時間かどうかは指示で決まりますで扱っています。
動く前に、記録だけは残しておいてください
園に相談するにせよ、外の窓口に相談するにせよ、聞かれるのは「いつ、誰から、何を言われたか」です。疲れているときに思い出すのは負担なので、先に残しておくほうが後で楽になります。
- 日付と時刻……あとから並べたときに、頻度が見えます
- 誰から誰に対して……自分に向けられたものか、同僚が受けたものを見たのか
- その場に誰がいたか……第三者がいたかどうかは、確認のしやすさに直結します
- 言われた言葉そのもの……要約ではなく、できるだけそのまま
- そのあと自分がどうなったか……眠れなかった、休んだ、など
メモの形式は問いません。手帳でもスマートフォンでもかまいません。大事なのは「あとで書いた記憶」ではなく「その日に書いたもの」であることです。
あわせて、園の相談窓口が誰なのかを確認してください。第30条の2第1項が求めているのは体制の整備ですから、窓口が誰なのか分からない状態そのものが、確認に値する状況です。
なお、ここで触れたストレスチェックを実施できるのは誰か(研修を修了した看護師などが省令に挙げられていること)は産業看護師の仕事内容|看護師を名指しした条文は省令の2か所だけですで扱っています。職種は違いますが、実施者の要件は業種を問わず同じです。
同じ「人間関係」でも、看護師の場合は根拠になる法律が違います。看護師等の人材確保の促進に関する法律と医療法が病院と都道府県に置いているものは看護師の人間関係に疲れたとき|法令が使う言葉は3つありますで扱っています。
園の中で解決しないときに、使える場所があります
相談したのに動いてもらえない。相談窓口が加害者側と同一人物で使えない。そもそも相談できる空気がない。——そうした状態なら、外の窓口を使ってください。無料で、匿名でも相談できます。
- 総合労働相談コーナー(厚生労働省) 全国379か所。労働条件、職場環境、いじめ・嫌がらせなど労働問題全般をワンストップで受け付けます。助言・指導やあっせんにつなぐこともできます
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html - こころの耳(厚生労働省) 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト。電話・SNS・メールの相談窓口があります
https://kokoro.mhlw.go.jp/
眠れない、食欲がない、休みの日も職場のことが頭から離れない。こうした状態が続いているなら、労働問題として相談する前に、医療機関の受診を検討してください。疲れが一定を超えると、状況を判断する力そのものが落ちます。
なお、介護の職場には、ここで見た労働法とは別に、介護保険の指定基準(省令)という入口があります。職種は違いますが、疲れの出どころを切り分けて窓口を選ぶという考え方は共通です。介護職の人間関係に疲れたとき|原因を3つに切り分けると、相談できる先が変わりますで扱っています。
入職して間もない時期であれば、研修の機会の確保が施設の義務とされている点も効いてきます。保育士1年目がつらいとき|経験0年と1〜4年の差は8割が賞与ですで扱っています。
よくある質問
Q. 「指導」と「パワハラ」の線引きはどこですか?
A. 条文は「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」という言い方をしています(第30条の2第1項)。必要性と相当性の両方で見る、という構造です。ただし個別の言動がこれに当たるかどうかの判断基準について、本記事では具体例を示していません。厚生労働大臣が定める指針があり(同条第3項)、そこに考え方が示されています。判断に迷う場合は、記録を持って総合労働相談コーナーに相談してください。
Q. 園に相談したら、立場が悪くなりませんか?
A. 法律は相談したこと、事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています(第30条の2第2項)。とはいえ、条文があることと現実に守られることは別です。だからこそ記録を残すことと、園の外にも窓口があることを知っておくことが意味を持ちます。
Q. うちの園は小さいので、法律の対象外ではないですか?
A. 相談体制の整備義務(第30条の2第1項)に規模の線はありません。中小事業主向けの経過措置は、公布(令和元年)から3年を超えない範囲と定められており、すでに経過しています。一方でストレスチェックは常時50人以上の事業場が義務、それ未満は当分の間 努力義務です(労働安全衛生法 附則第4条、同法施行令 第5条)。2つは別の話なので、混同しないでください。
迷ったらここ
園を移るかを決める前に、いまの園に相談窓口があるかを確かめる
相談体制の整備は規模を問わず事業主の義務です(労働施策総合推進法 第30条の2第1項)。窓口が誰なのか分からない状態そのものが、確認に値します。
- 相談窓口は誰か(担当者名まで示されているか)
- ストレスチェックは実施されているか(常時50人以上の事業場は義務)
- 次の園を見るとき、この2点を面接で聞けるか
まとめ
- 職場の人間関係は、法律上事業主が対処すべきこと。相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置は義務(労働施策総合推進法 第30条の2第1項)
- 相談したこと等を理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁止(同条第2項)
- この措置義務に規模の線はない。中小事業主の経過措置は公布(令和元年)から3年を超えない範囲で、すでに経過している
- 研修の実施は努力義務(第30条の3第2項)。義務と努力義務は分けて理解する
- ストレスチェックだけは規模で変わる。常時50人以上の事業場は義務、それ未満は当分の間 努力義務(労働安全衛生法 附則第4条/施行令 第5条)。数えるのは事業場(園)単位
- 令和6年度の「いじめ・嫌がらせ」相談は54,987件で13年連続最多。総合労働相談は120万1,881件
- 相談窓口は全国379か所。こころの耳と総合労働相談コーナーが使える
疲れているのはあなたの弱さではなく、対処されていない状態が続いているということです。相談するかどうかを決める前に、まず日付と言葉を1行書き残すところから始めてください。それだけで、次に何を選ぶかが少し決めやすくなります。

