30秒でわかるまとめ
- 介護職員の4〜7割が、利用者からハラスメントを経験していますサービス種別によって差はありますが、少ない区分でも4割の職員に経験があるという結果でした。
- 介護の人間関係のつらさは、3つに分けられます①職員どうし ②利用者・家族から ③認知症の症状(BPSD)で、扱いが異なる3区分です。
- 認知症の言動でも、我慢してよいわけではありませんBPSDはハラスメントとして扱いませんが、安全配慮まで不要という意味ではありません。
- 介護には、労働法とは別の相談先もあります労働局の総合労働相談コーナーのほか、指定した都道府県・市町村の介護保険担当課にも相談できます。
※「辞めるかどうか」の判断材料(離職率、辞めた理由の順位、働きやすさの施設形態別の差)は介護職を辞めたいと思ったら|辞めた理由の最多は人間関係27.3%で扱っています。この記事は辞める前に、疲れの原因を分けるところだけを扱います。

介護の「人間関係」には、他の職種にない経路があります
職場の人間関係というと、上司や同僚との関係を思い浮かべます。介護でもそれは大きな部分です。ただし介護には、もうひとつの経路があります。ケアの相手である利用者と、その家族です。
厚生労働省は平成30年度の老人保健健康増進等事業で、この実態を調べています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査名 | 平成30年度 老人保健健康増進等事業「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」 |
| 対象 | 訪問系・通所系・居宅介護支援事業所・入所系を無作為抽出、全体で1万件の施設・事業所 |
| 管理者票 | 発送10,000施設・事業所/回収2,155施設・事業所/回収率21.6% |
| 職員票 | 回収10,112人 |
| 利用者からハラスメントを受けた経験のある職員 | 4〜7割(サービス種別による) |
| 家族等から受けた経験のある職員 | 1〜3割(同) |
| 直近1年間(平成30年)で利用者から受けた職員 | 割合が高いサービスで6割程度、低いサービスで2割程度 |
出典:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4年3月改訂(平成30年度老人保健健康増進等事業の実態調査結果)
時点について正確に書いておきます。この調査の実施は平成30年(2018年)で、8年前の数字です。本記事の執筆時点でこれより新しい全国規模の同種調査を確認できなかったため、この数字を使っています。現在の水準がこのとおりであることを示すものではありません。
それでも押さえておきたいのは、この調査で「利用者から受けた経験がある」と答えた職員が、いちばん少ないサービス種別でも4割いたということです。あなたが感じている疲れが、職員どうしの関係だけから来ているとは限りません。

疲れの出どころを3つに分けます
介護現場で「人間関係がつらい」と言うとき、中身は少なくとも3つに分かれます。制度上の扱いが3つとも違うので、混ぜたままだと打つ手が決まりません。
| 疲れの出どころ | 制度上の扱い | 動かせる場所 |
|---|---|---|
| ① 職員どうし 上司・先輩・同僚の言動 | 労働法上のパワハラ・セクハラ +介護保険の指定基準 | 事業所の相談窓口/労働局/指定権者 |
| ② 利用者・家族から 暴言・暴力・性的な言動 | いわゆるカスタマーハラスメント (現在は解釈通知で「望ましい措置」) | 事業所(記録・複数名対応・契約の見直し) |
| ③ 認知症の症状として BPSDによる言動 | ハラスメントとして扱わない 医療的なケアで対応する | 主治医・ケアマネジャーとの相談 |
①と②は「やめさせる」方向の話です。③は「やめさせる」対象ではなく、ケアの方法を変える話になります。同じ「怒鳴られた」でも、行き先が違います。

BPSDは、制度上ハラスメントとして扱わないことになっています
厚生労働省のマニュアルは、はっきりこう書いています。
「認知症等の病気または障害の症状として現われた言動(BPSD等)は、『ハラスメント』としてではなく、医療的なケアによってアプローチする必要があります。」
BPSDとは何を指すのか、同じマニュアルが定義しています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 行動症状 | 暴力、暴言、徘徊、拒絶、不潔行為 等 |
| 心理症状 | 抑うつ、不安、幻覚、妄想、睡眠障害 等 |
出典:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4年3月改訂
マニュアルは具体例も挙げています。認知症の「もの盗られ妄想」はハラスメントではなく、認知症の症状としてケアが必要である、という整理です。
ここで大事なことが2つあります。
1つ目。あなたが一人で判断するものではありません。マニュアルは「ハラスメントか、BPSD等認知症等の病気または障害による言動かの判断は、施設・事業所だけでなく、利用者の主治医(かかりつけ医)やケアマネジャー等の意見も確認しながら判断することが必要です」としています。現場の職員が自分で線を引く前提にはなっていません。
2つ目。「症状だから我慢する」という意味ではありません。マニュアルは続けてこう書いています。「認知症等の病気または障害に起因する暴言・暴力であっても、職員の安全に配慮する必要があることには変わりありませんから、ハラスメント対策とは別に、対応を検討する必要があります。」
つまり③に分類されたからといって、あなたが黙って耐える結論にはならないということです。分類が変わると、相談する相手と対策の種類が変わります。
訪問介護の指定基準では、その義務がどの条に置かれているかまで追えます。ハラスメントを防ぐ措置や苦情処理の手順の主語が誰かはサービス提供責任者がきついとき|省令が義務を負わせている相手は誰かで扱っています。
事業者の義務は、労働法だけでなく介護保険の指定基準にもあります
ここが介護に固有の部分です。介護サービス事業者には、介護保険法にもとづく指定基準(省令)のなかに、就業環境を守る義務が書かれています。訪問介護の条文を引きます。
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第30条第4項「指定訪問介護事業者は、適切な指定訪問介護の提供を確保する観点から、職場において行われる性的な言動又は優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより訪問介護員等の就業環境が害されることを防止するための方針の明確化等の必要な措置を講じなければならない。」
これは訪問介護だけの話ではありません。同じ規定が、サービスの種類ごとに繰り返し置かれています。
| 基準(省令) | 同じ規定が置かれている条文数 | 例 |
|---|---|---|
| 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 | 6か所 | 訪問介護 第30条/訪問入浴介護 第53条の2/通所介護 第101条/特定施設入居者生活介護 第190条 ほか |
| 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 | 1か所 | 第19条(対象は「介護支援専門員」) |
| 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 | 2か所 | 第24条(対象は「従業者」) |
| 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準 | 2か所 | 第26条 ほか |
| 合計 | 11か所 | — |
出典:e-Gov法令検索より編集部が集計(法令ID 411M50000100037/411M50000100038/411M50000100039/411M50000100040)。いずれも見出しは「勤務体制の確保等」
訪問でも通所でも入所でも、ケアマネジャーでも、事業者にはこの義務があります。そして重要なのは、これが指定の要件だということです。介護事業所は都道府県や市町村の指定を受けて運営しています。指定基準を満たしていない状態は、労働法違反とは別に、介護保険制度の側から指導・監査の対象になります。
なお利用者・家族からのハラスメント(カスタマーハラスメント)は、現在のところ条文ではなく解釈通知のレベルで、事業者が「講ずることが望ましい措置」として位置づけられています。厚生労働省老健局は、改正労働施策総合推進法の内容を踏まえ、カスタマーハラスメントへの対応についても義務付けを行うことを検討するとしています。本記事の執筆時点では、まだ検討段階です。
職員どうしのハラスメントについて、労働法の側がどう定めているか(事業主の措置義務、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止など)は、保育士の人間関係|相談体制の整備は事業主の義務ですで条文を追っています。職種は違いますが、労働法の部分はどの業種でも同じなので、そちらを読んでください。この記事では重複を避けて扱っていません。
研修を受けられているかどうかも、指定基準に照らして確かめられる項目です。認知症介護に係る基礎的な研修の一文が入っているサービスと入っていないサービスは介護職1年目がきついとき|無資格なら研修を受けさせる義務は事業者にありますで扱っています。
だから、相談できる入口が2つあります
ここまでを実務の形に直します。介護職には、他業種にはない2系統目の入口があります。
| 労働法の系統 | 介護保険の系統 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 労働施策総合推進法 ほか | 介護保険法にもとづく指定基準(省令) |
| 相手 | 都道府県労働局/総合労働相談コーナー | 指定した都道府県・市町村の介護保険担当課 |
| 見られるもの | 事業主として措置を講じているか | 指定基準を満たして運営しているか |
| 使いどころ | 職員どうしのハラスメント | 事業所が方針の明確化等の措置を何もしていないとき |
片方が動かなくても、もう片方が残っているというのが、この2系統の意味です。事業所に相談しても取り合ってもらえない場合、労働局だけが選択肢ではありません。
相談の入口とは別に、体の負担についても、事業者が取るべき対策が国の腰痛予防対策指針に書かれています。訪問介護では、事業者が各家庭に説明し、腰痛予防の対応策への理解を得るよう努めることとしています。介護職が腰痛で続けられないとき|保健衛生業の災害性腰痛は、指針改訂の年から約1.7倍に増えていますで扱っています。
訪問系と入所系で、受けやすい内容が違います
同じ調査は、利用者から受けたハラスメントの内容をサービス種別で比べています。
| サービス種別 | 最も多い内容 |
|---|---|
| 訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所介護、居宅介護支援 など | 精神的暴力 |
| 特定施設入居者生活介護、介護老人福祉施設、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護 | 身体的暴力 |
出典:同マニュアル 図表2(この1年間に利用者からハラスメントを受けた職員 n=3,113・複数回答)。訪問系は精神的暴力の割合が高い傾向、入所・入居施設は身体的暴力と精神的暴力のいずれも高い傾向
この違いには実務上の意味があります。訪問系は1対1になりやすく、入所系は身体介護の場面が多い。マニュアルはリスク要因の筆頭に「1対1や1対多の状況」を挙げ、そうなる状況をできるだけ回避できる環境の整備が必要だとしています。
訪問系については、介護報酬の側にも手当てがあります。訪問介護・訪問看護で、利用者またはその家族等の同意を得たうえで、暴力行為や著しい迷惑行為等が認められるような場合、複数名でサービス提供を行うと加算が算定できます。訪問介護では所定単位数の100分の200です。「一人で行くしかない」は制度上の前提ではありません。
疲れの出どころが職場ではなく自分の適性にあると感じるときは、法律が何を求めているかを確かめる方法もあります。登録の取消しや名称の使用停止ができるのは信用失墜行為と秘密保持義務の違反のときだけで、仕事の速さや覚えの良さはどの条文の対象でもありません。介護職に向いてない人の特徴|法律が書いているのは6か条の行為だけですで扱っています。
一人で抱えないための窓口
マニュアルは、対策の基本的な考え方の5番目にこう置いています。「問題が起こった際には施設・事業所内で共有し、誰もが一人で抱え込まないようにすること」。これは職員だけでなく、相談を受けた管理者についても同じだとしています。
事業所の中で共有できないときに使える、公的な窓口です。
- 総合労働相談コーナー(都道府県労働局) — 職場のトラブル全般。無料・予約不要。https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
- こころの耳(厚生労働省) — 働く人のメンタルヘルス。電話・SNS・メールの相談窓口があります。https://kokoro.mhlw.go.jp/
- 指定した都道府県・市町村の介護保険担当課 — 事業所が指定基準を満たしていないと考えられるとき
マニュアルは、施設・事業所だけで抱え込まないことも求めています。地域の他団体・機関、医師等の他職種、保険者、地域包括支援センター、保健所、法律の専門家、警察とも、必要に応じて連携することとされています。警察が選択肢として明示されているのは、ハラスメントのなかに暴行罪・傷害罪・脅迫罪・強制わいせつ罪等の犯罪になり得る行為が含まれるためです。
よくある質問
Q. 利用者から暴言を受けても、認知症だから仕方ないのでしょうか。
仕方ないという整理にはなっていません。認知症の症状として現れた言動はハラスメントとしてではなく医療的なケアで対応する、というのが厚生労働省のマニュアルの立場ですが、同じマニュアルは「認知症等の病気または障害に起因する暴言・暴力であっても、職員の安全に配慮する必要があることには変わりありません」として、ハラスメント対策とは別に対応を検討する必要があるとしています。対応の種類が変わるだけで、放置してよいという結論にはなりません。また、ハラスメントかBPSDかの判断は主治医やケアマネジャー等の意見も確認しながら行うこととされており、現場で一人で判断するものではありません。
Q. 事業所に相談しても何も変わりません。ほかに行ける場所はありますか。
2系統あります。労働法の系統(都道府県労働局の総合労働相談コーナー)と、介護保険の系統(指定した都道府県・市町村の介護保険担当課)です。後者は他業種にはない入口で、事業所が就業環境を害されることを防止する措置を講じているかどうかは、指定基準(省令)に定められた事項です。
Q. 訪問で一人のときに怖い思いをします。複数名で行くことはできますか。
制度上は可能です。訪問介護・訪問看護では、利用者またはその家族等の同意を得たうえで、暴力行為や著しい迷惑行為等が認められるような場合に複数名でサービス提供を行うと、介護報酬上の加算が算定できます(訪問介護は所定単位数の100分の200)。実際に運用できるかは事業所の体制によりますが、「一人で行くしかない」が制度の前提ではないことは、事業所に確認する材料になります。
迷ったらここ
その疲れが誰から来ているのかを、3つのどれかに置き直す
職員どうしか、利用者・家族からか、認知症の症状(BPSD)か。3つで制度上の扱いが違うため、混ぜたままだと相談する相手が決まりません。分けたうえで、次の職場を見るときの質問に変えてください。
- 見学先に、就業環境を守る方針が文書であるか(指定基準が定める「方針の明確化等の措置」)
- 利用者・家族からの言動を記録・共有する仕組みがあるか(担当者の申送りに入っているか)
- 訪問系なら、複数名でのサービス提供を実際に運用しているか(訪問介護は所定単位数の100分の200)
まとめ
- 介護の「人間関係」は①職員どうし ②利用者・家族から ③認知症の症状(BPSD)の3つに分かれ、制度上の扱いがそれぞれ違う
- ③はハラスメントとして扱わず医療的なケアで対応する。ただし職員の安全配慮は別に検討すべきものとされており、我慢する結論にはならない
- 判断は主治医・ケアマネジャー等の意見も確認しながら行うこととされている。現場で一人で線を引くものではない
- 介護事業者には指定基準(省令)に就業環境を守る措置義務があり、主要4基準だけで11か所に置かれている
- だから相談の入口が2系統ある。労働局と、指定した都道府県・市町村の介護保険担当課
- 訪問系は精神的暴力、入所系は身体的暴力が最も多い。訪問は複数名対応の加算が制度上ある
「人間関係に疲れた」を一語のまま持っていると、相談する相手が決まりません。誰から、どういう性質のことを受けているのか。そこを3つのどれかに置き直すところまでできれば、次に話す相手は自動的に決まります。分けるところまでを、まずやってみてください。

