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30秒でわかるまとめ
- 看護師の引き止めは、言われた言葉ごとに条文が違います契約期間の途中か、違約金や損害賠償の話か、借りたお金の話かで、当たる条文が別々に置かれています。
- 1年を超える有期契約は、1年を過ぎれば申し出て退職できます労働基準法の附則第137条です。高度な専門的知識等を持つ人や満60歳以上の人などは、対象から外れます。
- 違約金や賠償額の予定は、労働基準法が禁じる契約です第16条は違約金を定める契約と損害賠償額を予定する契約を、第17条は前借金と賃金の相殺を禁じています。
- 自己都合退職の相談は、いじめ・嫌がらせに次ぐ多さでした令和7年度、総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の相談の内訳で38,386件。前年度より7.5%減っています。
※期間の定めのない雇用で辞めるときの手続(申し入れから2週間)は栄養士を辞めたいとき、辞めたい気持ちそのものは「看護師を辞めたい」と思ったらで扱っています。

先に断ります:辞めるかどうかを決める記事ではありません
この記事は、辞めることをすすめるものでも、引き止めに応じることをすすめるものでもありません。
扱うのは、「辞めると伝えたあとに、何と言われたか」です。「人が足りない」「契約期間が残っている」「辞めるなら違約金」「借りたお金を返してから」。言葉によって、法律が定めていることが違います。
個別の契約が有効か無効か、お金を返す必要があるかどうかは、この記事では判断しません。条文に何と書いてあるかと、相談できる場所までを並べます。

まず数字:自己都合退職の相談は、いじめ・嫌がらせに次ぐ2番目です
厚生労働省は毎年、総合労働相談コーナーに寄せられた相談の集計を公表しています。令和7年度分(令和8年7月7日公表)で、民事上の個別労働関係紛争の相談は277,053件でした。
その内容を分けると、資料は上位を次のように並べています。
| 資料の順位 | 相談の内容 | 件数 | 内訳延べ件数に占める割合 |
|---|---|---|---|
| ① | いじめ・嫌がらせ | 55,614件 | 17.0% |
| ② | 自己都合退職 | 38,386件 | 11.7% |
| ③ | 労働条件の引き下げ | 33,368件 | 10.2% |
出典:厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」別添1・別添2(内訳延べ相談件数は計327,359件)
辞める側の相談が、いじめ・嫌がらせの次に来ています。なお、内訳には「その他の労働条件」(59,647件)という、名前のついた項目より大きいくくりもあります。資料の①〜③は、このくくりを順位に入れていません。
10年間の推移は次のとおりです。
| 年度 | 自己都合退職の相談件数 |
|---|---|
| 平成28年度 | 40,364件 |
| 平成29年度 | 38,954件 |
| 平成30年度 | 41,258件 |
| 令和元年度 | 40,081件 |
| 令和2年度 | 39,498件 |
| 令和3年度 | 40,501件 |
| 令和4年度 | 42,694件 |
| 令和5年度 | 42,472件 |
| 令和6年度 | 41,502件 |
| 令和7年度 | 38,386件 |
出典:同資料【参考】第1表 民事上の個別労働関係紛争相談件数の推移(相談内容別)
どの年度も4万件前後です。令和7年度は前年度より7.5%減り、10年間でいちばん少なくなりました。第1表で「その他の労働条件」「その他」を除いて並べると、10年間どの年度も、いじめ・嫌がらせに次ぐ2番目です(編集部集計)。
この件数は全産業の集計で、看護師だけの数ではありません。また「自己都合退職」の相談の中身(引き止めがどれだけあるか)は、資料に内訳がありません。
ただ、資料が載せている助言・指導の事例の1つは、まさに引き止めの話です。正社員の申出人が、会社の規程に基づき退職日の1か月前に退職の意思を伝え、退職届を出したところ、上司から次のように言われ、希望する日での退職が認められない状況が続いた、というものです。
「退職をするなら、もっと前に言ってもらわないと困る」
出典:同資料 別添3 助言・指導の例 事例3(原文どおり)
労働局は事業主に、規程に基づいて意思表示をしていることと民法第627条第1項を説明し、話し合うよう助言しました。その結果、申出人の希望する日に退職することになったと書かれています。

言われた言葉ごとに、当たる条文は違います
| 言われた言葉(例) | まず確かめること | 当たる条文 |
|---|---|---|
| 「人が足りないから、もう少し」 | 契約に期間の定めがあるか | 期間の定めがなければ民法 第627条第1項/あれば民法 第628条 |
| 「契約期間が残っている」 | 契約期間が1年を超えるか、1年を過ぎたか | 民法 第628条、労働基準法 第14条・附則第137条 |
| 「辞めるなら違約金」「損害賠償を請求する」 | 契約書・誓約書に金額や違約金の定めがあるか | 労働基準法 第16条 |
| 「借りたお金を返すまで」 | 借りたお金と給料を差し引く話か | 労働基準法 第17条 |
| 脅す・閉じ込めるなどして働かせる | どんな手段が使われているか | 労働基準法 第5条 |
出典:本文中に挙げた各条文。左の2列は編集部が場面ごとに整理したもの
期間の定めのない雇用(いわゆる正職員の多く)で辞めるときの民法第627条第1項は、栄養士を辞めたいときで条文を読んでいます。この記事は、その先の「期間の定めのある契約」と「お金の話」の側を扱います。
いちばん重いのは第5条です。
「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」
出典:労働基準法(e-Gov法令API 法令ID 322AC0000000049)第5条(原文どおり)
違反した者は、第117条で1年以上10年以下の拘禁刑又は20万円以上300万円以下の罰金とされています。労働基準法の罰則の中でも、いちばん重い定めです。
「契約期間の途中だから」:民法第628条は「やむを得ない事由」です
契約社員や、1年ごとに更新する契約など、期間を決めて結んだ雇用には、民法 第628条があります。
「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」
出典:民法(e-Gov法令API 法令ID 129AC0000000089)第628条(原文どおり)
| 条文が書いていること | 読み取れること |
|---|---|
| 雇用の期間を定めた場合であっても | 期間の定めのある契約についての条文 |
| やむを得ない事由があるときは | 途中で解除できる場面の条件 |
| 各当事者は、直ちに | 働く側も使用者側も、予告期間なしに解除できる |
| 当事者の一方の過失によって生じたものであるときは | 事由を生じさせた側が、相手方に損害賠償の責任を負う |
出典:民法 第628条。右欄は条文の文言を編集部が分解したもの
何が「やむを得ない事由」に当たるかは、条文に列挙されていません。体調、家族の介護、職場の状況など、個別の事情で判断が分かれるところです。本記事は当てはめをしていません。
契約の長さそのものには、労働基準法 第14条第1項が上限を置いています。期間の定めのないものと一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、3年(第1号・第2号に当たる労働契約は5年)を超える期間で結んではならない、という定めです。
ここが本題:1年を超える契約なら、1年を過ぎれば申し出て退職できます
期間の定めのある契約には、もう1つ、労働基準法の附則に置かれた条文があります。
「期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。」
出典:労働基準法 附則第137条(原文どおり)
| 条件 | 条文の言葉 |
|---|---|
| 契約 | 期間の定めのある労働契約で、その期間が一年を超えるものに限る(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除く) |
| 対象から外れる人 | 第十四条第一項各号に規定する労働者(高度の専門的知識等を有し、その知識等を必要とする業務に就く人/満六十歳以上の人) |
| いつから | 契約期間の初日から一年を経過した日以後 |
| どうやって | 使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる |
| 民法との関係 | 民法第六百二十八条の規定にかかわらず |
出典:労働基準法 附則第137条、第14条第1項第1号・第2号
「やむを得ない事由」を求めていない点が、民法第628条と違うところです。ただし対象は「1年を超える」契約で、1年ちょうどの契約は書き方の上で入りません。また、平成15年の改正法の附則に定める措置が講じられるまでの間、という期限つきの定めです。
看護師は、第14条第1項第1号の告示に名前があるか
対象から外れる「高度の専門的知識等」を持つ人は、厚生労働大臣の告示(平成15年厚生労働省告示第356号)が定めています。その第2号が挙げる資格は、次の12です。
公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士、弁理士
出典:労働基準法第十四条第一項第一号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(平成15年厚生労働省告示第356号)第2号。数は編集部が計数
この列挙に、看護師・准看護師・保健師・助産師の名前はありません。告示にはほかに、博士の学位や、年収などの要件で定める号もあります。個人がどこかの号に当たるかは、本記事では判断していません。
「辞めるなら違約金」:違約金と賠償額の予定は、第16条が禁じています
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」
出典:労働基準法 第16条(原文どおり)
条文の見出しは「賠償予定の禁止」です。禁じられている契約は2つあります。
- 違約金を定める契約(例:途中で辞めたら○円を払う、という取り決め)
- 損害賠償額を予定する契約(実際の損害とは別に、あらかじめ賠償の額を決めておく取り決め)
違反した者は、第119条で6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金とされています。
ここで注意が要ります。第16条が禁じているのは「定める」「予定する」契約です。実際に損害が生じた場合の賠償のすべてを否定する書き方ではありません。民法第628条の後段も、事由が一方の過失で生じたときの損害賠償の責任を定めています。どの請求が成り立つかは個別の判断で、本記事は扱いません。
「借りたお金がある」:給料との相殺は、第17条が禁じています
「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」
出典:労働基準法 第17条(原文どおり)
条文の見出しは「前借金相殺の禁止」です。対象は、働くことを条件として前もって貸したお金と、賃金を差し引き合うことです。違反した者は、第16条と同じく第119条の罰則の対象です。
病院が独自に設ける奨学金や修学資金について、本記事は次のことを判断していません。
- その貸付が、条文の「労働することを条件とする前貸の債権」に当たるか
- 辞めたときに返す必要があるか、いつ・いくら返すか
条文から言えるのは、「働くことを条件に貸したお金を、給料から差し引いて回収すること」を禁じている、というところまでです。返還の約束そのものの扱いは契約書の中身によるため、書面を持って相談窓口で確かめられます。
なお、都道府県が貸す看護師等修学資金は、病院の奨学金とは別の制度です。制度の骨組みは助産師の学校の学費で扱っています。
話し合いで進まないとき:労働局の助言・指導とあっせん
職場との話し合いが進まないときのために、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律が3つの入口を置いています。
| 入口 | 誰が | 根拠 | 令和7年度の「自己都合退職」 |
|---|---|---|---|
| 相談・情報の提供 | 都道府県労働局長(総合労働相談コーナー) | 第3条 | 相談38,386件 |
| 助言・指導 | 都道府県労働局長 | 第4条 | 申出864件 |
| あっせん | 紛争調整委員会 | 第5条・第6条 | 申請174件 |
出典:個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(e-Gov法令API 法令ID 413AC0000000112)第3条〜第6条、厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」総括表(件数は内訳延べ件数)
助言・指導を求めたことや、あっせんを申請したことを理由にした扱いについて、法律はこう定めています。
「事業主は、労働者が第一項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
出典:個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律 第4条第3項(原文どおり)。第5条第2項が、あっせんを申請した場合に準用しています
| 窓口 | 扱っていること |
|---|---|
| 総合労働相談コーナー(厚生労働省) | 都道府県労働局、労働基準監督署、駅近隣の建物など378か所(令和8年4月1日現在)。予約不要・無料。助言・指導やあっせんの案内も |
| こころの耳(厚生労働省) | 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト。電話・SNS・メールの相談窓口の案内 |
出典:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」、同「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」、こころの耳
引き止めが続いて眠れない、食べられないといった状態が先に立っているときは、相談より先に受診してください。
この記事が扱っていないこと
- 個別の契約や誓約書が有効かどうか。条文の文言を示すところまでで、当てはめはしていません。
- 病院独自の奨学金・修学資金を返す必要があるかどうか。契約ごとの取り決めで、本記事は取得していません。
- 就業規則の予告期間と民法の関係。どちらが優先するかの判断はしていません。
- 看護師だけを取り出した相談件数。資料は全産業の集計で、職種別の数は取得していません。
- 退職前の年次有給休暇の取り方。有給の条文はクリニック看護師は有給を取れるかで扱っています。
- 離職したあとのナースセンターへの届出。クリニック看護師のブランクで扱っています。
看護師が確認できること
- 契約に期間の定めがあるか。あるなら、その期間が1年を超えるか、初日から1年を過ぎたか。
- 契約書・誓約書に、違約金や賠償の金額が書かれていないか。第16条が禁じているのは、違約金を定める契約と損害賠償額を予定する契約です。
- 奨学金・修学資金の契約書の、返還の条件と方法。給料から差し引く形になっていないかも、書面で確かめられます。
- 退職の意思を伝えた日と、伝えた方法の記録。相談するとき、日付のわかるものがあると話が早くなります。
- 入職時の労働条件通知書。契約期間や退職に関する事項が書かれています。
よくある質問
Q. 「人が足りないから辞めないで」と言われました。辞められませんか。
A. まず契約に期間の定めがあるかを確かめてください。期間の定めのない雇用には民法 第627条第1項、期間の定めのある雇用には民法 第628条や労働基準法 附則第137条があります。どれが当たるかで、条文の定めが違います。
Q. 「辞めるなら違約金を払ってもらう」と言われました。
A. 労働基準法 第16条は「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。個別の取り決めの扱いは、契約書を持って総合労働相談コーナーで相談できます。
Q. 病院の奨学金が残っています。返し終わるまで辞められませんか。
A. 労働基準法 第17条が禁じているのは、働くことを条件とする前貸の債権と賃金の相殺です。その奨学金がこれに当たるか、返す必要があるかは契約によるため、本記事では判断していません。契約書を持って相談窓口で確かめられます。
Q. 1年契約の途中で辞めたいときは、附則第137条を使えますか。
A. 附則第137条の対象は、期間が「一年を超えるもの」に限られています。1年ちょうどの契約は、書き方の上では入りません。その場合は民法 第628条の「やむを得ない事由」が関わります。
Q. 労働局に助言・指導を求めたら、職場で不利になりませんか。
A. 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律 第4条第3項は、援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています。あっせんの申請にも、第5条第2項で準用されています。
迷ったらここ
引き止めの言葉を、条文に置き換える
契約期間の途中なら民法 第628条、1年を超える契約で1年を過ぎていれば労働基準法 附則第137条が関わります。違約金を定める契約と損害賠償額を予定する契約は、第16条が禁じています。
- 契約に期間の定めがあるか。あるなら、その期間が1年を超えるか
- 契約書や誓約書に、途中で辞めたときの違約金や賠償の金額が書かれていないか
- 奨学金・修学資金の返還の条件と、給料から差し引く形になっていないか
まとめ
令和7年度、総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の相談の内訳で、自己都合退職は38,386件。いじめ・嫌がらせに次ぐ2番目でした。辞める側の相談は、毎年4万件前後あります。
引き止めの言葉ごとに、当たる条文は違います。契約期間の途中なら民法 第628条の「やむを得ない事由」、1年を超える契約で1年を過ぎていれば労働基準法 附則第137条の「申し出ることにより、いつでも退職することができる」。
「辞めるなら違約金」は、違約金を定める契約・損害賠償額を予定する契約を禁じる第16条の領域です。「借りたお金がある」は、前借金と賃金の相殺を禁じる第17条が関わります。
個別の契約がどう扱われるかは、書面を持って総合労働相談コーナーで確かめられます。助言・指導やあっせんを求めたことを理由とする不利益な取扱いは、法律で禁じられています。

