PRこのページはプロモーションを含みます。広告に関する開示
30秒でわかるまとめ
- 看護師のインシデント報告は、省令が病院に求める仕組みです医療法施行規則は、事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずることを求めています。
- 原因の分析は、個人の責任追及を行うものではないとされます令和8年3月の国の通知が、医療安全管理委員会の原因の調査と分析について、そう留意するよう書いています。
- インシデントは、実施前の発見と影響に至らなかった事例です国の報告書は、誤った医療行為などが患者に影響を及ぼすに至らなかったものなどを、そう呼んでいます。
- 落ち込んだときは、職場の中にも外にも相談先があります病院などには医療安全管理者が置かれ、職場の外にはこころの耳や総合労働相談コーナーがあります。
※医療安全の体制の全体はクリニック看護師の人数と仕事内容、心の健康を支える職場の仕組みは看護師のメンタルヘルス対応で扱っています。

先に断ります:この記事は責任の有無を判断しません
インシデントのあとに落ち込む気持ちについて、この記事はその良し悪しを決める記事ではありません。
ここで確かめるのは、インシデントの報告が、法令と国の資料の中でどんな位置づけにあるかです。刑事・民事・行政上の責任がどうなるかは、個別の事情で変わるため、本記事では判断しません。
眠れない、食べられない、気分の落ち込みが続くといった状態があるときは、医療機関の受診を検討してください。

言葉の確認:インシデントは「患者に影響を及ぼすに至らなかったもの」
インシデントという言葉は、法律の条文には出てきません。言葉の整理をしているのは、厚生労働省の医療安全対策検討会議が平成14年4月17日にまとめた報告書「医療安全推進総合対策」です。
「「インシデント」は、日常診療の場で、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは、誤った医療行為などが実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったものをいう。」
出典:医療安全推進総合対策 第1章 1−3【参考】3 アクシデントとインシデント(原文どおり)
| 言葉 | 報告書の整理 |
|---|---|
| インシデント | 誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、または実施されたが結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったもの |
| ヒヤリ・ハット | 本検討会議では、インシデントと同義として用いる |
| アクシデント | 通常、医療事故に相当する用語として用いる。本検討会議では同義として「事故」を用いる |
出典:同報告書 第1章 1−3【参考】3
この整理は「本検討会議では」と断って置かれたものです。病院ごとの報告の区分や呼び方は、それぞれの指針で決まっています。

医療法の「医療事故」は、予期しなかった死亡又は死産です
医療法にも「医療事故」という言葉があります。こちらは意味が狭く決められています。第6条の10第1項の括弧書きです。
「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの」
出典:医療法(e-Gov法令API 法令ID 323AC0000000205)第6条の10第1項の括弧書きの一部(原文どおり)
この医療事故が起きた場合、病院等の管理者は医療事故調査・支援センターに報告し(第6条の10)、原因を明らかにするための調査を行います(第6条の11)。いわゆる医療事故調査制度です。
患者に影響を及ぼすに至らなかったインシデントは、この「死亡又は死産」には当たりません。同じ「事故」「報告」という言葉でも、医療事故調査制度の報告と、院内のインシデント報告は別の仕組みです。
ここが本題:報告は、省令が病院に求める「改善のための方策」です
院内の報告の根拠は、医療法 第6条の12と、それを受けた医療法施行規則 第1条の11です。
「病院等の管理者は、法第六条の十二の規定に基づき、次に掲げる安全管理のための体制を確保しなければならない(ただし、第二号及び第五号については、病院、患者を入院させるための施設を有する診療所及び入所施設を有する助産所に限る。)。」
出典:医療法施行規則(e-Gov法令API 法令ID 323M40000100050)第1条の11第1項 柱書(原文どおり)
そのうち第4号が、報告に当たる部分です。
「医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること。」
出典:同規則 第1条の11第1項第4号(原文どおり)
義務を負っているのは「病院等の管理者」です。そして報告は、「安全の確保を目的とした改善のための方策」の1つとして書かれています。報告そのものが目的なのではなく、改善のための手段という置き方です。
報告のあとに続くのは、原因の分析と改善です
第1条の11第1項第2号は、医療安全管理委員会に行わせる業務を3つ並べています。
| 第2号 | 委員会に行わせる業務(条文の言葉) |
|---|---|
| イ | 重大な問題その他委員会で取り扱うことが適当な問題が発生した場合における速やかな原因の究明のための調査及び分析 |
| ロ | イの分析の結果を活用した改善のための方策の立案及び実施並びに従業者への周知 |
| ハ | ロの改善のための方策の実施の状況の調査及び必要に応じた当該方策の見直し |
出典:同規則 第1条の11第1項第2号イ〜ハ
この省令の運用について、厚生労働省は令和8年3月31日に医政局長通知「病院等における医療の安全を確保するための措置について」(医政発0331第72号)を出しています。第2号イの調査と分析について、こう書いています。
「規則第1条の11第1項第2号イに規定する原因の究明のための調査及び分析は、客観的な事実から構造的な原因を分析するものであり、個人の責任追及を行うものではないことに留意すること。」
出典:医政発0331第72号「病院等における医療の安全を確保するための措置について」記1(2)④(原文どおり)
同じ通知は、第2号ロの改善のための方策について、背景要因及び根本原因を分析し検討された効果的な再発防止策等を含むものとしています(記1(2)⑤)。
分析の対象は、誰が間違えたかではなく、なぜ起きたかの「構造的な原因」です。ただし、これは院内の医療安全の仕組みについて国が示した留意事項です。法的な責任の有無を決めるものではありません。
国の資料は「人は誤りを犯す」を前提にしています
この考え方は、令和8年の通知で初めて出てきたものではありません。平成14年の「医療安全推進総合対策」は、他産業が「人は誤りを犯す」ことを前提とした組織的対策を講じている点などを参考とすべきだとし、次のように書いています。
「さらに、事故の予防に重点を置いて考える場合には、「誤り」に対する個人の責任追及よりも、むしろ、起こった「誤り」に対して原因を究明し、その防止のための対策を立てていくことが極めて重要であることを強調しておきたい。」
出典:医療安全推進総合対策 第1章 1−1(1)医療安全の確保(原文どおり)
報告の意味についても、同じ報告書がこう書いています。
「医療事故につながる可能性のある問題点を把握して効果的な安全対策を講じるためには、全職員を対象とした事故事例やヒヤリ・ハット事例などの報告体制を構築し、その結果得られた知見を組織全体で学び続けることが重要である。」
出典:同報告書 第2章 2−1(4)標準化等の推進と継続的な改善 の「事故事例等の情報を活用した安全管理」(原文どおり)
厚生労働省の「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」(令和2年3月改定)も、安全文化の醸成のための業務の1つとして、次の一文を置いています。
「医療安全の確保のためには、関連する情報の収集および提供が必要であり、その情報の活用にあたっては、個人の責任を追求するものとならないように配慮する。」
出典:医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針 Ⅰ 3(5)(4)(原文どおり)
同じ指針は、医療安全管理者が研修で身につける事項に、医療事故やヒヤリ・ハットの報告者を非難しない組織文化の醸成を挙げています(Ⅱ 4(6)(3))。報告した人を責めないことが、国の資料では仕組みの一部として書かれています。
病院と診療所で、報告の行き先が違います
第1条の11第1項のただし書で、委員会(第2号)と医療安全管理者(第5号)は、病院と入院施設のある診療所などに限られています。報告の方策(第4号)は、入院施設のない診療所にもかかります。
令和8年3月の通知は、第4号の方策に含むものとして次を挙げています。
| 通知の項目 | 内容 |
|---|---|
| ① | 発生した事故等を医療安全管理委員会へ報告する。入院施設のない診療所などは管理者へ報告する |
| ② | あらかじめ指針で定められた報告すべき事例の範囲、報告手順等に従って事例を収集、分析し、組織としての改善策の企画立案と実施状況の評価を行い、情報を共有する |
| ③ | 重大な事故の発生時には、速やかに管理者へ報告する。改善策は背景要因及び根本原因を分析して検討する |
| ④ | 事故の報告は診療録、看護記録等に基づき作成する |
| ⑤ | 管理者は、重大な事故の報告を受けた場合、当該診療の継続の可否の検討を含めて適切に対応する |
出典:医政発0331第72号 記1(4)①〜⑤
通知は、従業者が管理者1名しかいない場合などは、委員会の開催や管理者への報告等を実施しなくても差し支えないとしています。また、第5号の医療安全管理者は、第4号の方策を円滑に実施するために必要な業務を行うことが省令に書かれています(第1条の11第1項第5号ハ)。
落ち込んだときに、職場の中と外で頼れる先
職場の中には、上司のほか、病院や入院施設のある診療所であれば医療安全管理者が置かれています。
先の業務指針は、医療事故が起きたときの初動対応として、医療安全管理者が必要に応じて支援する事項の1つに「医療事故に関与した職員の精神的支援等」を挙げています(Ⅰ 3(4)(2)⑦)。指針の冒頭には、そのような事例を経験した医療従事者に対する支援について、丁寧に対応する必要があるとも書かれています。
職場の中では話しにくいときは、外の窓口があります。
- こころの耳(厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)。トップページに「匿名で無料で相談できます」とあり、電話・SNS・メールの相談窓口が案内されています。こころの耳
- 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・労働基準監督署内)。いじめ・嫌がらせ、パワハラなどを含む労働問題全般の相談を、予約不要・無料で受け付けています。総合労働相談コーナーのご案内
気分の落ち込みが続くときは、相談と並行して医療機関の受診を検討してください。こころの耳のサイトには、精神科・心療内科などの医療機関を探す全国医療機関検索もあります。
この記事が扱っていないこと
- 刑事・民事・行政上の責任の判断。個別の事情で変わるため、本記事は判断していません。「報告すれば責任を問われない」とは書いていません。
- 医療事故調査制度の手続の詳細。本記事は、インシデントとの違いを示す範囲でしか扱っていません。
- 院内感染対策、医薬品・医療機器の安全管理。第1条の11第2項の領域で、クリニック看護師の人数と仕事内容で扱っています。
- 看護記録の法令上の位置づけと保存期間。看護記録の法律と保存期間で扱っています。
- 特定機能病院などに上乗せされる要件。本記事は取得していません。
- インシデントの件数や内訳の集計。民間団体の集計は使わず、国の一次資料で件数を取得していないため、数字は書いていません。
看護師が職場で確認できること
- 安全管理のための指針に、報告の基本方針があるか。通知は、指針に事故報告等の改善のための方策に関する基本方針を文書化するとしています。
- 報告すべき事例の範囲と報告手順が決まっているか。通知は、あらかじめ指針で定めた範囲と手順に従って事例を収集、分析するとしています。
- 医療安全管理者は誰か。病院と入院施設のある診療所では、省令が配置を求めています。
- 報告のあとに、改善策が周知されているか。第2号ロは、改善のための方策の従業者への周知を委員会の業務にしています。
- 事例に関わった職員を支える取り決めがあるか。業務指針は、医療事故に関与した職員の精神的支援等を挙げています。
よくある質問
Q. インシデントを起こしたら、看護師として責任を問われますか。
A. 刑事・民事・行政上の責任は個別の事情で変わるため、本記事では判断していません。国の通知は、医療安全管理委員会が行う原因の調査及び分析について「個人の責任追及を行うものではない」と書いていますが、これは院内の医療安全の仕組みについての留意事項で、法的な責任の有無を決めるものではありません。
Q. インシデントとアクシデントの違いは何ですか。
A. 平成14年の国の報告書「医療安全推進総合対策」は、インシデントを、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、または実施されたが結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったものとし、アクシデントは通常、医療事故に相当する用語として用いるとしています。
Q. インシデントは、医療事故調査制度の対象になりますか。
A. 医療法 第6条の10の医療事故は、医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産で、管理者が予期しなかったものです。患者に影響を及ぼすに至らなかったインシデントは、この死亡又は死産には当たりません。
Q. 小さなクリニックにも報告の仕組みはありますか。
A. 医療法施行規則 第1条の11第1項第4号の方策は、入院施設のない診療所にもかかります。令和8年3月の通知は、入院施設のない診療所では管理者へ報告するとし、従業者が管理者1名しかいない場合などは管理者への報告等を実施しなくても差し支えないとしています。
Q. 落ち込みが続いて、眠れません。
A. 一人で抱えず、上司や医療安全管理者、こころの耳などの窓口に相談してください。眠れない状態が続くときは、医療機関の受診を検討してください。
迷ったらここ
報告の仕組みを先に確かめる
インシデントの報告は、医療法施行規則が病院等の管理者に求める改善のための方策の一部です。令和8年3月の国の通知は、原因の調査と分析を個人の責任追及を行うものではないとしています。
- 報告すべき事例の範囲と報告手順が指針で決まっているか
- 医療安全管理者は誰か、相談できる体制があるか
- 報告のあとに改善策が職員へ周知されているか
まとめ
インシデントの報告は、医療法施行規則 第1条の11第1項第4号が病院等の管理者に求める「事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策」の一部です。報告のあとには、原因の調査と分析、改善のための方策の立案と周知、実施状況の見直しが続きます。
令和8年3月の国の通知は、委員会の原因の調査と分析について「個人の責任追及を行うものではない」と書いています。平成14年の報告書も、個人の責任追及よりも原因の究明と防止の対策が重要だとしています。
報告の行き先は、入院施設の有無で変わります。職場の中には上司や医療安全管理者、外にはこころの耳や総合労働相談コーナーがあります。落ち込みが続くときは、医療機関の受診も選択肢です。

