訪問看護が一人で不安なあなたへ|制度は「一人で訪問する」前提でも、「一人で判断する」前提ではありません

訪問看護は判断まで一人ではありません(看護師)
目次

30秒でわかるまとめ

  • 訪問看護師が感じる一人の不安は、2つに分けられます訪問が一人であることは制度の前提ですが、判断まで一人にする前提には、なっていません
  • 急変のときに求められているのは、判断ではなく連絡です厚生労働省令第72条は、臨時応急の手当とともに速やかに主治医へ連絡し指示を求めることを義務づけています
  • 訪問看護計画書を作れないのは、能力の差ではありません厚生労働省令第70条第1項は計画書の作成者を看護師等(准看護師を除く)と定めており、役割分担の規定です
  • 訪問看護の事業所は、5年で45.6%増えています全国に18,042事業所あります。ひとりで抱えきれないときは、こころの耳に無料で相談できます
シニアから聞き取り(訪問看護師)

不安の中身を、2つに分けてください

「訪問看護は一人だから不安」という言葉には、性質の違う2つのものが混ざっています。分けて考えると、対処の仕方が変わります。

不安の中身制度上の扱い
A訪問は一人で行く。すぐ隣に先輩がいない制度の前提。訪問看護はそういうサービス
B判断も一人でしなければならない。間違えたら自分の責任制度はそう作られていません

Aは変えられません。訪問看護は利用者の居宅に出向くサービスですから、その場に一人でいる時間は必ずあります。

変えられるのはBの認識のほうです。そして多くの場合、人を追い詰めるのはBです。「自分が判断しなければ」と思い込んでいるとき、実際には制度がその判断を一人に負わせていない——これが、この記事でお伝えしたいことです。

仕事に悩む男女

ここで根拠にしている省令は、介護保険側のものです。訪問看護には医療保険側にもう一つ省令があり、運営規程の8項目は同じでも、医療保険側にだけ置かれた条があります。その違いは訪問看護の仕事内容と1日|制度が2つあり、根拠の省令が違いますで扱っています。

制度は「一人で判断する」ことを想定していません

訪問看護の根拠になる条文を順に見ていきます。

まず介護保険法 第8条第4項。訪問看護とは、「主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めたものに限る」利用者について、その居宅で行われる療養上の世話または必要な診療の補助をいう、と定義されています。出発点に主治の医師がいます。

そして指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準が、具体的な手続きを定めています。

条文定めていること
第69条第1項事業所の管理者は、主治の医師の指示に基づき適切な訪問看護が行われるよう必要な管理をしなければならない
第69条第2項訪問看護の提供の開始に際し、主治の医師による指示を文書で受けなければならない
第69条第3項主治の医師に訪問看護計画書及び訪問看護報告書を提出し、提供に当たって主治の医師との密接な連携を図らなければならない
第70条第6項事業所の管理者は、訪問看護計画書及び訪問看護報告書の作成に関し、必要な指導及び管理を行わなければならない
第72条訪問看護の提供中に利用者に病状の急変等が生じた場合には、必要に応じて臨時応急の手当を行うとともに、速やかに主治の医師への連絡を行い指示を求める等の必要な措置を講じなければならない

出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)。条文は原文

読み方を整理します。

1. 指示は口頭ではなく「文書」です。何をしてよいかは、訪問前に文書で決まっています。あなたがその場でゼロから決めるのではありません。

2. 急変時に求められているのは「判断」ではなく「連絡」です。第72条は「臨時応急の手当」と「速やかに主治の医師への連絡を行い指示を求める」を並べています。指示を求めることが義務として書かれている——つまり、一人で完結させないことが正しい対応だと省令が明記しているわけです。

3. 管理者に責任が置かれています。第69条第1項と第70条第6項は、いずれも主語が「管理者」です。適切な訪問看護が行われるよう管理する責任、計画書と報告書の作成を指導し管理する責任は、訪問する看護師個人ではなく管理者にあります。

あわせて、保健師助産師看護師法 第37条も同じ構造です。保健師・助産師・看護師・准看護師は、主治の医師または歯科医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、その他医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない——ただし臨時応急の手当をする場合はこの限りでない、とされています。

「指示の範囲で動く」ことと「緊急時は応急の手当をする」ことが、法律のレベルで両立させてあります。どちらか一方だけを背負う必要はありません。

悩む看護師

実際の事業所の規模も国の調査に出ていて、1事業所当たりの看護職員は常勤換算で5.4人でした。給与の数字とあわせて訪問看護師の年収|常勤の看護師1人当たり給与費は月470,844円ですで扱っています。

訪問は一人でも、職場は一人ではありません

人員基準を確認します。

項目基準根拠
看護職員(保健師・看護師・准看護師)の員数常勤換算方法で2.5以上第60条第1項第1号イ
そのうち常勤1名以上第60条第2項
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士事業所の実情に応じた適当数第60条第1項第1号ロ
管理者事業所ごとに専従の常勤者。保健師または看護師でなければならない(やむを得ない理由がある場合を除く)。適切な訪問看護を行うために必要な知識及び技能を有する者第61条

訪問看護ステーションは、制度上「一人でやる事業所」を認めていません。常勤換算2.5以上という数字は、常勤の人だけで数えれば3人に満たない規模ですが、少なくとも複数人がいることを前提にしています。そして管理者は保健師か看護師です。看護の相談ができる相手が、事業所の責任者として必ず置かれています。

全国の状況も見ておきます。

項目数
訪問看護ステーション数(令和6年10月1日)18,042事業所(前年比1,619事業所・9.9%増)
5年前(令和2年10月1日)12,393事業所
5年間の増加+45.6%(編集部算出)
看護師(保健師・助産師を含む)128,935人
准看護師9,877人
理学療法士28,666人
作業療法士12,308人
言語聴覚士3,527人
従事者 総数200,229人

出典:厚生労働省「令和6(2024)年介護サービス施設・事業所調査の概況」表1(基本票)・表6(詳細票)/令和6年10月1日現在。従事者数は実人員

開設主体は営利法人が66.8%、医療法人が18.2%、社会福祉法人が4.5%です(同調査)。5年で45.6%増えているということは、選べる職場がそれだけ増えているということでもあります。いまの事業所の体制が合わないと感じるなら、それは訪問看護そのものが向いていないという意味ではないかもしれません。

職種別の従業者の数や経験年数等、従業者からの相談への対応は、介護保険法の仕組みで報告・公表される項目に入っています。転職前にどこを見ればよいかは 訪問看護ステーションの選び方|従業者の数と経験年数は、省令が定める公表項目ですで扱っています。

線引きは、あなたが決めるものではありません

「これは自分がやっていいのか」で迷う場面のために、省令がすでに決めていることを挙げます。迷ったら条文に戻れると知っておくだけで、負荷は変わります。

  • 訪問看護計画書を作成するのは「看護師等(准看護師を除く)」です(第70条第1項)。准看護師は計画書の作成者になりません。これは能力の問題ではなく、制度上の役割分担です
  • 計画書は利用者または家族に主要な事項を説明し、同意を得て、交付しなければなりません(第70条第3項・第4項)。口頭で済ませてよいものではありません
  • すでに居宅サービス計画(ケアプラン)がある場合は、その内容に沿って訪問看護計画書を作成します(第70条第2項)。単独で決めるものではありません
  • 訪問日と提供した看護内容等を記載した訪問看護報告書を作成します(第70条第5項)。記録は義務です
  • 同居の家族である利用者に訪問看護を提供させてはなりません(第71条)。事業者に課された禁止規定です

とくに1つめは、准看護師として働いている方に知っておいてほしい規定です。計画書を作らないことは、手を抜いていることではありません。省令がそう定めています。准看護師の位置づけについては准看護師の年収は427.5万円|看護師との差97.2万円で、法律上の定義も含めて整理しています。

計画書の「療養上の課題・支援内容」や「評価」の欄に何を書くかも、記載要領で決まっています。欄ごとの書き方は訪問看護計画書の書き方|記載要領が欄ごとに示す項目は7つですで扱っています。

それでも不安が続くときに、使える場所があります

ここまでは制度の話でした。ただ、条文を読んでも不安が消えないことはあります。「制度上そうなっている」ことと「職場が実際にそう運用している」ことは、残念ながら別だからです。

指示書が形骸化している、連絡してもつながらない、管理者に相談できる空気がない——そうした状態が続いているなら、それはあなたの経験不足の問題ではなく、事業所の運営の問題です。省令が管理者に課している義務が果たされていない可能性があります。

ひとりで抱えないでください。公的な相談窓口があります。無料で、匿名でも相談できます。

  • こころの耳(厚生労働省) 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト。電話・SNS・メールの相談窓口があります
    https://kokoro.mhlw.go.jp/
  • 総合労働相談コーナー(厚生労働省) 全国の労働局・労働基準監督署内などに設置。労働条件、職場環境、いじめ・嫌がらせなど、労働問題全般の相談を受け付けています
    https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

眠れない、食欲がない、休みの日も仕事のことが頭から離れない——こうした状態が続いているときは、職場の問題として相談する前に、医療機関を受診することを検討してください。心身の不調は、判断力そのものを鈍らせます。

なお、同じ「一人になる時間」でも、深夜業に当たる時間帯にはその人にだけ用意された制度があります。割増賃金、年2回の健康診断、自発的健康診断の3つは看護師の夜勤がきついとき|夜勤する人だけに用意された3つの制度で扱っています。

よくある質問

Q. 訪問先で急変が起きたら、一人で判断しなければならないのですか?

A. 省令 第72条は、「必要に応じて臨時応急の手当を行うとともに、速やかに主治の医師への連絡を行い指示を求める等の必要な措置を講じなければならない」と定めています。連絡して指示を求めることが義務として書かれています。一人で完結させることを求めてはいません。また保健師助産師看護師法 第37条も、主治の医師の指示があった場合を除いて医薬品の授与等をしてはならないとしつつ、臨時応急の手当は例外としています。具体的にどこまでが臨時応急の手当にあたるかは個別の状況によるため、本記事では判断基準を示していません。事業所の手順書と主治医の指示書で確認してください。

Q. 経験が浅くても訪問看護はできますか?

A. 訪問看護ステーションの看護職員について、経験年数の要件を定めた規定は人員基準にありません。要件が定められているのは管理者で、「保健師又は看護師」であること、「適切な指定訪問看護を行うために必要な知識及び技能を有する者」であることが求められています(第61条第2項・第3項)。制度が経験を求めているのは管理者の側です。ただし実際の教育体制は事業所ごとに違うため、同行訪問の期間や相談体制を応募時に確認してください。

Q. 事業所に相談できる人がいません。どうすればいいですか?

A. まず制度を確認してください。訪問看護ステーションには常勤換算2.5以上の看護職員を置く必要があり、管理者は保健師または看護師でなければなりません(第60条・第61条)。相談できる看護職が実質的にいない状態は、基準の運用として確認が必要な状況です。事業所内で解決しない場合は、上に挙げた総合労働相談コーナーやこころの耳に相談できます。全国に18,042の訪問看護ステーションがあり、5年で45.6%増えています。訪問看護を続けたいのに事業所が合わない、という選択肢の分け方もあります。

迷ったらここ

事業所を比べるときは、看護職員の実人数と管理者の資格を確認する

人員基準の下限は常勤換算2.5、うち1名が常勤です。全国に18,042事業所あり5年で45.6%増えているぶん、相談できる相手がいるかどうかは事業所ごとに差があります。

  • 看護職員は常勤何人・非常勤何人か(常勤換算ではなく実人数で)
  • 管理者は保健師または看護師か(第61条の要件を満たしているか)
  • 急変時に主治医へ連絡する手順は決まっているか(第72条への対応)
看護師の転職サービスを比較する

まとめ

  • 不安は「訪問が一人」と「判断が一人」に分けられる。後者は制度が想定していない
  • 訪問看護の開始には主治の医師の指示を文書で受けることが必要(省令 第69条第2項)
  • 急変時に義務づけられているのは臨時応急の手当と、速やかな主治医への連絡・指示を求めること(同 第72条)
  • 適切な訪問看護が行われるよう管理する責任、計画書・報告書の作成を指導する責任は管理者にある(同 第69条第1項・第70条第6項)
  • 人員基準は看護職員 常勤換算2.5以上、うち1名は常勤。管理者は保健師または看護師(同 第60条・第61条)
  • 訪問看護計画書の作成者から准看護師は除かれている(同 第70条第1項)。制度上の役割分担であり、能力の評価ではない
  • 全国に18,042事業所、看護師128,935人・准看護師9,877人。5年で45.6%増
  • 制度どおりに運用されていない職場なら、それは個人の力量の問題ではない。こころの耳と総合労働相談コーナーに相談できる

不安なまま訪問に出る日があってもかまいません。ただ「自分ひとりで決めなければならない」という前提だけは、条文を根拠に手放してください。それは、あなたが背負うことになっていないものです。

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この記事を書いた人

医療・福祉・保育の人材紹介の現場で求職者の相談を受けてきた編集者が担当しています。キャリアアドバイザー歴8年、転職相談・紹介の対応実績1,500人以上(自社実績/2026年8月時点)。介護・看護師・保育士・栄養士の4分野を担当。記事の数値には必ず出典と公表時点を添えています。

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