30秒でわかるまとめ
- 保健師の仕事は、保健指導だけではありません地域保健法第6条は保健所の事業を14号にわたって挙げ、統計や食品衛生、水道なども含まれます
- 保健師への指導や研修も、保健所の仕事のひとつです地域保健法第6条第6号は「保健師に関する事項」で、市町村保健師への指導や研修も保健所の仕事です。
- 母子保健を担当すると、家庭訪問が仕事の柱になります母子保健法が保健師を名指しする5か条のうち3つが訪問指導で、新生児・妊産婦・未熟児が対象です
- 健康危機のときは、他の地域へ応援に入ることもあります地域保健法第21条が「業務支援員」を定め、承諾した専門知識を持つ人が他地域の応援に入れます。
※免許の取り方・国家試験・就業先の人数は保健師になるには|受験資格は3ルート、就業先の70.6%は行政です、企業で働く場合は産業看護師の仕事内容|法律に「看護師」は0か所ですで扱っています。この記事は免許と統計を扱いません。仕事の中身を定めた条文だけを読みます。

先に断ります:保助看法には仕事の中身が書いてありません
保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第2条は、こう定めています。
「この法律において『保健師』とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。」
これで全文です。「保健指導」が何を指すのかは、この条文からは分かりません。
仕事の中身は、保健師が置かれる場所を定めた法律のほうに書かれています。行政で働く保健師なら地域保健法と母子保健法です。この記事はその2本を読みます。

保健所の事業は14号に列挙されています
地域保健法(昭和22年法律第101号)第6条は、保健所が「企画、調整、指導及びこれらに必要な事業を行う」対象を14号にわたって挙げています。
| 号 | 事項 |
|---|---|
| 1 | 地域保健に関する思想の普及及び向上に関する事項 |
| 2 | 人口動態統計その他地域保健に係る統計に関する事項 |
| 3 | 栄養の改善及び食品衛生に関する事項 |
| 4 | 住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生に関する事項 |
| 5 | 医事及び薬事に関する事項 |
| 6 | 保健師に関する事項 |
| 7 | 公共医療事業の向上及び増進に関する事項 |
| 8 | 母性及び乳幼児並びに老人の保健に関する事項 |
| 9 | 歯科保健に関する事項 |
| 10 | 精神保健に関する事項 |
| 11 | 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健に関する事項 |
| 12 | 感染症その他の疾病の予防に関する事項 |
| 13 | 衛生上の試験及び検査に関する事項 |
| 14 | その他地域住民の健康の保持及び増進に関する事項 |
出典:地域保健法 第6条第1号〜第14号(e-Gov法令API 法令ID 322AC0000000101)。号数は条文どおり
ここから2つのことが読み取れます。
1つめ。範囲が非常に広いことです。統計、食品衛生、水道、廃棄物、薬事、歯科、精神保健、難病、感染症、検査。「保健指導」という言葉から想像するより、はるかに広い守備範囲が条文に並んでいます。
2つめ。第6号が「保健師に関する事項」であることです。保健師が事業を行う側であると同時に、保健師そのものが保健所の事業の対象として条文に書かれています。市町村の保健師への技術的助言や研修も、保健所の仕事に含まれることになります。

さらに「行うことができる」事業が4つあります
第7条は、第6条とは書き方が違います。「必要があるときは、次に掲げる事業を行うことができる」という定めです。
| 号 | 事業 |
|---|---|
| 1 | 所管区域に係る地域保健に関する情報を収集し、整理し、及び活用すること |
| 2 | 所管区域に係る地域保健に関する調査及び研究を行うこと |
| 3 | 歯科疾患その他厚生労働大臣の指定する疾病の治療を行うこと |
| 4 | 試験及び検査を行い、並びに医師、歯科医師、薬剤師その他の者に試験及び検査に関する施設を利用させること |
出典:地域保健法 第7条第1号〜第4号
さらに都道府県が設置する保健所には、第8条で別の役割が加えられています。所管区域内の市町村について「市町村相互間の連絡調整」を行い、「市町村の求めに応じ、技術的助言、市町村職員の研修その他必要な援助を行うことができる」という定めです。
都道府県の保健所と市町村では、条文が想定している仕事が違います。求人を見るときに効いてくる違いです。
市町村保健センターは、目的が3つだけ書かれています
同じ地域保健法でも、市町村保健センターの条文(第18条)はとても短く書かれています。
第1項が「市町村は、市町村保健センターを設置することができる」、第2項が目的の定めです。
| 条文 | 書かれていること |
|---|---|
| 第18条第1項 | 市町村は、市町村保健センターを設置することができる(義務ではない) |
| 第18条第2項 | 住民に対し、健康相談、保健指導及び健康診査その他地域保健に関し必要な事業を行うことを目的とする施設 |
出典:地域保健法 第18条第1項・第2項
保健所が14号の列挙で書かれているのに対し、市町村保健センターは3つの言葉で書かれています。住民に近い側の仕事が、条文の上でも短く整理されています。
なお第19条は、国が市町村保健センターの設置費用の一部を補助できることを定めています。
ここが本題:母子保健法は「保健師」を名指ししています
地域保健法は職種名をほとんど書きません。これに対し母子保健法(昭和40年法律第141号)は、条文の中で「保健師」という職種名を直接使っています。
| 条 | 見出し | 条文が「保健師」を挙げている場面 |
|---|---|---|
| 第10条 | 保健指導 | 市町村が、医師・歯科医師・助産師・保健師について保健指導を受けることを勧奨する |
| 第11条 | 新生児の訪問指導 | 医師・保健師・助産師その他の職員に新生児の保護者を訪問させる |
| 第16条 | 母子健康手帳 | 妊産婦が医師・歯科医師・助産師・保健師の健康診査又は保健指導を受けたとき、手帳に記載を受ける |
| 第17条 | 妊産婦の訪問指導等 | 医師・助産師・保健師その他の職員に妊産婦を訪問させる |
| 第19条 | 未熟児の訪問指導 | 医師・保健師・助産師その他の職員に未熟児の保護者を訪問させる |
出典:母子保健法 第10条、第11条、第16条第2項、第17条第1項、第19条第1項(e-Gov法令API 法令ID 340AC0000000141)。5か条という数は編集部が本則を検索して計数
5つのうち3つが「訪問指導」です。新生児・妊産婦・未熟児。家庭を訪問するという仕事が、法律の側から保健師に割り当てられています。
同じ母子保健法には、出産後1年までの母子を対象にした産後ケア事業の条もあり、配置の基準は助産師・保健師・看護師のいずれかを常に1名以上です。助産師の側から読んだ整理は助産師の仕事内容と1日|分べんのほかに、産後ケアという法律上の事業がありますで扱っています。
新生児と未熟児で、条文が分かれています
第11条と第19条は、どちらも訪問指導ですが条件が違います。
| 比べる点 | 第11条 新生児の訪問指導 | 第19条 未熟児の訪問指導 |
|---|---|---|
| 対象 | 新生児 | 未熟児 |
| 訪問の判断 | 育児上必要があると認めるとき | 養育上必要があると認めるとき |
| 訪問する相手 | 当該新生児の保護者 | 当該未熟児の保護者 |
| 優先関係 | 第19条の指導が行われるときは、第11条は適用しない(ただし書) | — |
出典:母子保健法 第11条第1項(ただし書を含む)、第19条第1項
もうひとつ、第11条には第2項があります。「新生児に対する訪問指導は、当該新生児が新生児でなくなつた後においても、継続することができる」という定めです。
日数で切れる仕事ではないことが、条文に書き込まれています。
健康診査は、市町村の義務として2回定められています
母子保健法 第12条第1項は、市町村が健康診査を「行わなければならない」対象を2つ挙げています。
| 号 | 対象 |
|---|---|
| 1 | 満1歳6か月を超え満2歳に達しない幼児 |
| 2 | 満3歳を超え満4歳に達しない幼児 |
出典:母子保健法 第12条第1項第1号・第2号
この2つは義務です。これに加えて第13条第1項が、妊産婦・乳児・幼児に対して「必要に応じ」健康診査を行い、又は受けることを勧奨しなければならないと定めています。
年齢が条文で指定されている2回と、必要に応じて行うものが、別々の条に分かれています。
健康危機のときの仕組みが条文にあります
地域保健法 第21条は、新型インフルエンザ等感染症等の発生の公表が行われた場合その他の健康危機が発生した場合について定めています。
保健所を設置する地方公共団体の長は、あらかじめ承諾をした「地域保健の専門的知識を有する者」に対し、区域内の地域保健対策に係る業務への従事又は助言を要請することができます。要請を受けた人を条文は「業務支援員」と呼んでいます。
第2項は、業務支援員を使用している者に対し、業務の遂行に著しい支障のない限り応援に行けるよう配慮する努力義務を課しています。第3項は守秘義務で、業務支援員でなくなった後も同様とされています。
平時の仕事だけでなく、非常時に応援へ入る枠組みまで法律に書かれている職種です。
保健所でも市町村保健センターでも、自治体の保健師は地方公務員として採用されます。採用試験を行うのは人事委員会等で、人事委員会があるかどうかで採用の方法の書き方が変わります。詳しくは 保健師の公務員試験|地方公務員法の原則は競争試験。選考も条文に書かれていますで扱っています。
保健所と市町村保健センターは、法律上の位置づけが違います
ここまでを整理します。
| 比べる点 | 保健所 | 市町村保健センター |
|---|---|---|
| 設置する主体 | 都道府県、指定都市、中核市その他政令で定める市、特別区(第5条第1項) | 市町村(第18条第1項) |
| 設置の性格 | 設置する(第5条第1項) | 設置することができる(第18条第1項) |
| 事業の書き方 | 14号の列挙(第6条)+できる事業4号(第7条) | 健康相談・保健指導・健康診査その他(第18条第2項) |
| 市町村への関与 | 都道府県の保健所は連絡調整・技術的助言・市町村職員の研修(第8条) | — |
出典:地域保健法 第5条第1項、第6条、第7条、第8条、第18条
同じ「行政の保健師」でも、根拠条文が違えば仕事も違います。
企業で働く場合は、根拠になる文書が変わります。労働安全衛生法の指針が保健師等に何を期待しているかは産業看護師のやりがい|指針が期待する役割は書いてありますで扱っています。
求人を見るときに確認できること
1. 保健所か、市町村か、市町村保健センターかを先に見る
条文の書き方がまったく違います。保健所は第6条の14号、市町村保健センターは第18条第2項の3つ。募集要項に施設の種類が書かれていなければ、そこを確認するだけで仕事の輪郭が変わります。
2. 都道府県の保健所なら「市町村支援」があるか聞く
第8条の連絡調整・技術的助言・市町村職員の研修は、都道府県が設置する保健所にだけ書かれている役割です。住民への直接支援と、市町村職員への支援は別の仕事です。
3. 母子保健の担当なら、訪問がどれだけあるかを見る
母子保健法が名指しした5か条のうち3つは訪問指導です。新生児・妊産婦・未熟児のどこを担当するのかで、外に出る時間が変わります。
4. 健康診査の担当範囲を確認する
第12条の1歳6か月児・3歳児は市町村の義務です。義務として毎年行われる業務なので、担当すれば年間の予定が固定されます。
5. 「保健指導」の一言で判断しない
保助看法の定義は一文だけです。実際の仕事は、その職場が根拠にしている法律で決まります。求人票に法律名が書かれていなくても、面接で「どの法律に基づく事業を担当するのか」は聞けます。
よくある質問
Q. 保健師の仕事は保健指導だけですか。
A. 保助看法 第2条の定義は「保健指導に従事することを業とする者」ですが、実際に担当する事業は勤務先の根拠法で決まります。保健所であれば地域保健法 第6条が14号の事項を挙げています。
Q. 保健所と市町村保健センターは何が違いますか。
A. 設置主体・設置の性格・事業の書き方がいずれも違います。本文の比較表をご覧ください。設置は保健所が第5条第1項、市町村保健センターが第18条第1項です。
Q. 訪問はどれくらいありますか。
A. 回数や頻度は条文に書かれていないため、本記事では扱っていません。母子保健法が訪問指導を定めているのは第11条・第17条・第19条の3か条です。実際の件数は自治体ごとに異なります。
Q. 企業で働く保健師の仕事も同じですか。
A. 違います。企業の場合は労働安全衛生法が根拠になります。その条文の並びは産業看護師の仕事内容で扱っています。
Q. 特定保健指導とは違うのですか。
A. 特定保健指導は高齢者の医療の確保に関する法律に基づく制度で、根拠法が別です。特定保健指導とはで扱っています。
Q. 保健師の給与はどれくらいですか。
A. 本記事は給与を扱っていません。保健師の年収で扱っています。
Q. 看護師と保健師では、法律上どこが違いますか。
A. 保助看法の定義がそれぞれ別の条に置かれています。免許と受験資格の関係は保健師になるにはで扱っています。
迷ったらここ
保健所か市町村保健センターかを、先に確認する
根拠条文が違えば仕事が違います。保健所は地域保健法 第6条の14号、市町村保健センターは第18条第2項の健康相談・保健指導・健康診査。募集要項の施設の種類だけで、仕事の輪郭が変わります。
- 勤務先は保健所か、市町村か、市町村保健センターか
- 都道府県の保健所なら、第8条の市町村支援(連絡調整・技術的助言・市町村職員の研修)を担当するか
- 母子保健の担当なら、第11条(新生児)・第17条(妊産婦)・第19条(未熟児)のどの訪問指導を受け持つか
まとめ
保健師を定義した条文は一文しかありません。仕事の中身は、勤務先を定めた法律の側に書かれています。
保健所であれば、地域保健法 第6条の14号。統計から食品衛生、水道、薬事、精神保健、難病、感染症まで並び、第6号には「保健師に関する事項」そのものが入っています。
市町村保健センターは第18条第2項の健康相談・保健指導・健康診査という3つの言葉で書かれています。都道府県の保健所には、第8条の市町村支援という別の役割があります。
そして母子保健法は、5か条で「保健師」を名指ししています。うち3つは訪問指導です。新生児は「育児上」、未熟児は「養育上」と、判断の言葉まで条文で分けられています。
「保健指導」という一語の中身は、法律を開けば具体的に書かれています。

