30秒でわかるまとめ
- 介護職の腰痛は、まず職場が対策をしているかを確かめます国の腰痛予防対策指針は、腰痛を防ぐ対策を講ずる主体を事業者とし、7つの要因の把握から始めるとしています。
- 抱え上げは原則させず、福祉用具を使うのが指針の形です全介助の人の移乗はリフト等を使い、腰痛の健康診断は配置の際と6月以内ごとに1回行うこととされています。
- 保健衛生業の災害性腰痛は、12年で約1.7倍になりました休業4日以上の件数で、平成25年の1,328件から令和7年は2,320件です。社会福祉施設だけの件数は表にありません。
- 指針は法律ではない一方、衛生委員会は法律が定めています常時50人以上の事業場には衛生委員会が要ります。それ以外の事業者も、関係労働者の意見を聴く機会を設けることとされています。
※病棟の介助から見た同じ指針は看護助手がきついとき、辞めるかどうかの考え方は「介護職を辞めたい」と思ったらで扱っています。

先に断ります:この記事は「続けるか辞めるか」を決めません
「腰痛で続けられない」と感じたとき、考えることは2つに分かれます。自分の体のことと、職場が対策をしているかどうかです。
この記事が扱うのは後者だけです。腰痛の診断や治療、体操の効果は書きません。痛みやしびれが続くときは、医療機関を受診してください。
材料は、厚生労働省の腰痛予防対策指針(平成25年6月18日 基発0618第1号で改訂)、業務上疾病の統計(平成25年〜令和7年)、労働安全衛生法と関係する政令・省令、業務上腰痛の認定基準(昭和51年)です。

数字で見る:保健衛生業の災害性腰痛は、12年で約1.7倍です
厚生労働省の業務上疾病の統計は、休業4日以上の業務上の疾病を業種別に数えています。そのうち「負傷に起因する疾病」の中の腰痛(災害性腰痛)を、保健衛生業と全業種の合計で並べました。
| 年 | 保健衛生業 | 全業種の合計 |
|---|---|---|
| 平成25年 | 1,328件 | 4,388件 |
| 平成26年 | 1,348件 | 4,583件 |
| 平成27年 | 1,361件 | 4,521件 |
| 平成28年 | 1,423件 | 4,722件 |
| 平成29年 | 1,593件 | 5,051件 |
| 平成30年 | 1,533件 | 5,016件 |
| 令和元年 | 1,648件 | 5,132件 |
| 令和2年 | 1,944件 | 5,582件 |
| 令和3年 | 2,066件 | 5,847件 |
| 令和4年 | 2,050件 | 5,959件 |
| 令和5年 | 2,194件 | 6,132件 |
| 令和6年 | 2,251件 | 6,291件 |
| 令和7年 | 2,320件 | 6,613件 |
出典:厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査」各年の第1表(業務上疾病発生状況(業種別・疾病別))。「負傷に起因する疾病」のうち腰痛の欄。休業4日以上
指針が改訂された平成25年の1,328件から、令和7年は2,320件になりました。約1.7倍です(2,320÷1,328、編集部算出)。同じ期間の全業種は約1.5倍(6,613÷4,388、編集部算出)で、保健衛生業の伸びのほうが大きくなっています。
毎年増えたわけではありません。平成30年と令和4年は、前の年より少なくなっています。
厚生労働省の「保健衛生業における腰痛の予防」のページは、長い目で見た流れをこう書いています。
「職場における腰痛発生件数は、昭和53年をピークとして長期的に減少したものの、社会福祉施設や医療保健業が含まれる保健衛生業においては、集計を開始した平成5年以降、発生件数が増加を続けています。」
出典:厚生労働省「保健衛生業における腰痛の予防」(原文どおり)
同じページは、保健衛生業の腰痛発生率(死傷年千人率)を0.25とし、全業種平均の0.1を大幅に上回るとしています。何年の数字かは、ページに書かれていません。
読むときの注意が2つあります。
- 業種の数字で、介護職だけの数字ではありません。表の業種区分は「保健衛生業」で、社会福祉施設と医療保健業などをまとめた数です。社会福祉施設だけの件数は、この表に区分がありません。
- 休業4日以上の件数です。休まずに働き続けた腰痛や、休業が3日以内だった腰痛は入っていません。

指針は、腰痛対策を事業者の責務として組み立てています
「職場における腰痛予防対策指針」は、厚生労働省労働基準局長の通達(平成25年6月18日 基発0618第1号)で改訂されたものです。最初の「はじめに」に、こう書かれています。
「事業者は、労働者の健康を確保する責務を有しており、トップとして腰痛予防対策に取り組む方針を表明した上で、安全衛生担当者の役割、責任及び権限を明確にしつつ、本指針を踏まえ、各事業場の作業の実態に即した対策を講ずる必要がある。」
出典:職場における腰痛予防対策指針(平成25年6月18日 基発0618第1号 別添)1 はじめに(原文どおり)
指針は対策を「作業管理、作業環境管理、健康管理及び労働衛生教育」に分け、これらを「総合的かつ継続的に」取り組むことが必要としています(同 1)。本文もこの順に、2 作業管理、3 作業環境管理、4 健康管理、5 労働衛生教育等と並び、最後の6で、作業ごとにリスクアセスメントを行う考え方を示しています。
作業管理の最初の「自動化、省力化」は、介護・看護等について「福祉用具を導入するなどの省力化を行い、労働者の腰部への負担を軽減すること」としています(同 2の(1))。作業の実施体制には、次の一文があります。
「特に、腰部に過度の負担のかかる作業では、無理に1人で作業するのではなく、複数人で作業できるようにすること。」
出典:同指針 2の(3)のロ(原文どおり)
介護作業の腰痛は、7つの要因で見ることになっています
指針は別紙で、腰痛の発生が比較的多い5つの作業について対策を示しています。その1つが「福祉・医療分野等における介護・看護作業」(別紙IV)です。別紙IVは、事業者が最初にすることを、要因の把握としています。
「介護・看護作業等に従事する労働者の腰痛の発生には、「介護・看護等の対象となる人(以下「対象者」という。)の要因」「労働者の要因」「福祉用具(機器や道具)の状況」「作業姿勢・動作の要因」「作業環境の要因」「組織体制」「心理・社会的要因」等の様々な要因が関与していることから、これらを的確に把握する。」
出典:同指針 別紙IVの1(原文どおり)
腰痛の要因は、働く人の側だけに置かれていません。「労働者の要因」は7つのうちの1つで、残りは対象者、福祉用具、作業姿勢・動作、作業環境、組織体制、心理・社会的要因です。
そのうえで、具体的な介護・看護等の作業を想定して、要因ごとに「高い」「中程度」「低い」などとリスクを見積もり(別紙IVの2)、リスクの大きさや緊急性を考えて対策を決める(別紙IVの3)、という順番です。対策の最初には、対象者が自立歩行、立位保持、座位保持ができるかを見て「対象者の残存機能と介助への協力度等を踏まえた介護・看護方法を選択すること」が置かれています(別紙IVの3の(1))。
ここが本題:抱え上げ・福祉用具・腰痛健診の3つを確かめます
別紙IVと指針本文が事業者に求めている対策のうち、介護の現場で確かめやすいのは次の3つです。
| 対策 | 指針の内容(要約) | 根拠 |
|---|---|---|
| 抱え上げ | 移乗・入浴・排泄の介助で、全介助の必要な対象者にはリフト等を積極的に使用し、原則として人力による人の抱上げは行わせない | 別紙IVの3の(3)のイ |
| 福祉用具 | 福祉用具(機器・道具)を積極的に使用する | 別紙IVの3の(2) |
| 腰痛の健康診断 | 介護・看護作業等に常時従事する労働者に、配置する際及びその後6月以内ごとに1回、医師による腰痛の健康診断を行う | 指針本文 4の(1) |
出典:同指針 別紙IVの3の(2)・(3)のイ、4の(1)
条文の全文や、ベッド・作業標準・教育の中身は、病棟の介助から読んだ看護助手がきついときで扱っています。介護の現場でも、指針の文言は同じです。
「腰痛で続けられない」と感じたら、この3つが自分の職場で行われているかを先に確かめられます。行われていない場合、問題は個人の体力ではなく、職場の対策の側にあるかもしれません。
訪問介護では、利用者の家庭が職場になります
別紙IVは、作業環境の整備として、段差をなくすこと、十分な広さを確保すること、介助に必要な福祉用具を出し入れしやすく使用しやすい場所に収納することなどを挙げています(別紙IVの3の(7))。そのうえで、訪問の仕事について別に書いています。
「対象者の家庭が職場となる訪問介護・看護では、腰痛予防の観点から作業環境の整備が十分なされていないことが懸念される。このことから、事業者は各家庭に説明し、腰痛予防の対応策への理解を得るよう努めること。」
出典:同指針 別紙IVの3の(7)のホ(原文どおり)
家庭に説明する役は、ヘルパー個人ではなく事業者に置かれています。訪問先のベッドの高さや部屋の広さで無理な姿勢になるときは、事業所に伝え、事業所から家庭に説明してもらう、という順番が指針の書き方に沿っています。
指針は法律ではありません。法律が定めているのは衛生委員会です
腰痛予防対策指針は、通達で示されたものです。法律の条文ではありません。一方で、職場の健康障害の防止について、労働安全衛生法はいくつかのことを事業者に定めています。
「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」
出典:労働安全衛生法(e-Gov法令API 法令ID 347AC0000000057)第3条第1項(前段。原文どおり)
腰痛の話し合いの場になりうるのが、衛生委員会です。
「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。」
出典:労働安全衛生法 第18条第1項(柱書。原文どおり)
| 定め | 内容(要約) | 根拠 |
|---|---|---|
| 調査審議する事項 | 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策/健康の保持増進を図るための基本となるべき対策/労働災害の原因及び再発防止対策で衛生に係るもの など | 法 第18条第1項第1号〜第4号 |
| 設ける事業場 | 常時五十人以上の労働者を使用する事業場 | 施行令 第9条 |
| 開催と周知 | 毎月一回以上開催し、開催の都度、議事の概要を労働者に周知させる | 規則 第23条第1項・第3項 |
出典:労働安全衛生法 第18条第1項、労働安全衛生法施行令(法令ID 347CO0000000318)第9条、労働安全衛生規則(法令ID 347M50002000032)第23条
常時50人未満の事業場はどうか。規則は、委員会を設けていない事業者にも次のように定めています。
「委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない。」
出典:労働安全衛生規則 第23条の2(原文どおり)
指針の別紙IVも、対策の見直しで衛生委員会を名指ししています。
「事業者は、定期的な職場巡視、聞き取り調査、健診、衛生委員会等を通じて、職場に新たな負担や腰痛が発生していないかを確認する体制を整備すること。」
出典:職場における腰痛予防対策指針 別紙IVの4(原文どおり)
指針の対策そのものは法律ではありませんが、腰痛を職場の議題にする場は、法律と省令に用意されています。
腰痛の労災は「災害性」と「災害性によらない」に分かれます
業務上の腰痛の認定基準(昭和51年10月16日 基発第750号)は、腰痛を「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」に分けています。前者は、腰部に対する急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じたと明らかに認められるものなどです。後者は、重量物を取り扱う業務等腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者の腰痛で、作業態様、従事期間及び身体的条件からみて業務に起因して発症したと認められるものです。
出典:業務上腰痛の認定基準等について(昭和51年10月16日 基発第750号)記の1・2
前の章の統計も、災害性腰痛を「負傷に起因する疾病」の欄の中で数えています。個々の腰痛が認められるかどうかは、この記事では判断しません。
この記事が扱っていないこと
- 社会福祉施設だけの腰痛の件数。業務上疾病の第1表は業種区分が「保健衛生業」までで、社会福祉施設の内訳は取得していません。
- 介護職という職種だけの腰痛の件数。統計は業種別で、職種別の件数は取得していません。
- 個々の介護施設がリフト等をどれだけ備えているか。全国の整備状況の統計は取得していません。
- 労災保険の請求の手続や、個々の腰痛が認定されるかどうか。認定基準の区分だけを書いています。
- 腰痛の診断・治療・体操の効果。医学的な助言は扱っていません。
- 夜勤の負担や、人間関係などの「きつさ」。本記事は腰の負担に絞っています。
介護職として職場で確認できること
- 全介助の人の移乗にリフト等があり、実際に使われているか。指針は原則として人力による人の抱上げは行わせないとしています。
- 腰痛の健康診断を、配置の際と6月以内ごとに1回受けているか。
- 腰に負担の大きい介助を、1人でさせられていないか。指針は、無理に1人で作業するのではなく複数人で作業できるようにすることとしています。
- 衛生委員会があるか、議事の概要が知らされているか。常時50人以上の事業場では、毎月一回以上の開催と周知が定められています。
- 訪問先の環境について、事業所が家庭に説明しているか。指針は、説明して理解を得るよう努めることを事業者に求めています。
よくある質問
Q. 腰痛予防対策指針は、介護施設にも当てはまりますか。
A. 指針の別紙IVは「福祉・医療分野等における介護・看護作業」を対象にしており、その対象に高齢者介護施設や訪問介護などを挙げています。個々の職場が指針をどう実施しているかは、職場ごとに確かめる必要があります。
Q. 指針を守っていない職場は、法律違反になりますか。
A. 指針は通達で示されたもので、法律の条文ではありません。一方、常時50人以上の事業場の衛生委員会(労働安全衛生法 第18条、施行令 第9条)や、委員会のない事業者が関係労働者の意見を聴く機会を設けること(規則 第23条の2)は、法令に定めがあります。
Q. 介護の腰痛は増えているのですか。
A. 休業4日以上の災害性腰痛は、保健衛生業で平成25年の1,328件から令和7年の2,320件になり、約1.7倍です。ただし保健衛生業は社会福祉施設と医療保健業などをまとめた業種区分で、介護職だけの件数ではありません。
Q. 仕事中に腰を痛めたら、労災になりますか。
A. 認定基準は、災害性の原因による腰痛と、災害性の原因によらない腰痛に分けて要件を定めています。個々の腰痛が当てはまるかどうかは、本記事では判断していません。
Q. 腰痛がつらく、この仕事を続けられるか迷っています。
A. 本記事は続けるか辞めるかを決める記事ではありません。まず医療機関を受診し、そのうえで、抱え上げ・福祉用具・腰痛の健康診断が職場で行われているかを確かめる方法があります。
迷ったらここ
介護職の腰痛は職場の対策で確かめる
国の腰痛予防対策指針は、全介助の人にはリフト等を積極的に使用し、原則として人力による人の抱上げは行わせないとしています。福祉用具や腰痛の健康診断があるかどうかは、職場選びの段階から確かめられます。
- 移乗の介助にリフト等の福祉用具があり、実際に使われているか
- 腰痛の健康診断が、配置の際と6月以内ごとに1回行われているか
- 衛生委員会や、職員の意見を聴く機会で腰痛が取り上げられているか
まとめ
「腰痛で続けられない」と感じたとき、国の職場における腰痛予防対策指針は、対策を講ずる主体を事業者としています。介護作業の腰痛は、対象者・労働者・福祉用具・姿勢・環境・組織・心理社会の7つの要因で見ることになっています。
確かめやすいのは、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと、福祉用具の積極的な使用、配置の際と6月以内ごとに1回の腰痛の健康診断の3つです。指針は法律ではありませんが、衛生委員会(常時五十人以上)と関係労働者の意見を聴く機会は法令に定めがあります。
保健衛生業の休業4日以上の災害性腰痛は、平成25年の1,328件から令和7年の2,320件へ、約1.7倍になっています。

