栄養士の開業で失敗するとき|資格が守ってくれない4本の線

目次

30秒でわかるまとめ

  • 栄養士の開業のつまずきは、資格の外にある線が理由です栄養士法自体は開業を禁じておらず、問題になり得るのは医師法や薬機法など別の4本の線です
  • 栄養士の免許は、開業の参入障壁にはなりません栄養士法が制限しているのは名称の使用だけで、免許のない人の参入を防ぐ規定ではありません
  • 「栄養士監修」という表示にも、線が引かれています医薬品医療機器等法第66条第2項は、専門家が保証したと誤解されるおそれがある表示も誇大広告に含めています
  • 行き詰まったときの相談先は、無料の窓口ですよろず支援拠点(中小企業基盤整備機構)は無料の経営相談所で、資金繰りや集客の相談ができます

※資格そのものの取り方(試験がないこと、養成施設の単位数)は栄養士になるには|試験がありません。決まっているのは学校側の基準ですで扱っています。この記事は、免許を持ったあとに「独立してやっていく」ときの話です。

料理教室の講師(フリーランス栄養士)

前提:栄養士法が与えているのは名称です

栄養士法 第1条第1項は、栄養士をこう定義しています。

「この法律で栄養士とは、都道府県知事の免許を受けて、栄養士の名称を用いて栄養の指導に従事することを業とする者をいう。」

定義の中心に「名称を用いて」が入っています。第6条第1項が名称の使用を制限しており、違反には罰金があります(この構造は栄養士になるにはで扱っています)。

ここから読み取れるのは、栄養士法が守っているのは名称であって、仕事の中身ではないということです。「栄養士」と名乗らずに献立を作る、食事の相談に乗る、料理教室を開く——これらを禁じる規定は、この法律にありません。

開業を考えるときに、この点は最初に効いてきます。免許があることは、同じ市場に免許のない人が入ってこないことを意味しません。資格を取るまでに積んだ2年以上の課程は、競争上の壁としては働かない構造になっています。

食品をチェックして困る栄養士

名乗れる範囲には、条文上の差があります

ただし、栄養士と管理栄養士では、定義に書かれている業務の範囲が違います。第1条を並べます。

資格定義に書かれている業務
栄養士(第1条第1項)栄養の指導
管理栄養士(第1条第2項)傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導/個人の身体の状況、栄養状態等に応じた高度の専門的知識及び技術を要する健康の保持増進のための栄養の指導/特定多数人に対して継続的に食事を供給する施設における利用者の身体の状況等に応じた特別の配慮を必要とする給食管理及びこれらの施設に対する栄養改善上必要な指導等

出典:栄養士法(昭和22年法律第245号)第1条第1項・第2項(e-Gov法令API 法令ID 322AC0000000245)

「傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導」は、管理栄養士の定義にだけ書かれています。栄養士の定義は「栄養の指導」までで、そこに病気や療養という語はありません。

開業して「持病のある方向けの食事相談」を看板にする場合、条文がその業務を置いているのはどちらの側かを確認しておく必要があります。なお、栄養士がこの領域の業務を行うことを禁じる罰則規定は、栄養士法の中には見当たりません。本記事では、定義の書き分けがあるという事実までを示します。

免許そのものについては、第5条第1項が「栄養士が第3条各号のいずれかに該当するに至つたときは、都道府県知事は、当該栄養士に対する免許を取り消し、又は一年以内の期間を定めて栄養士の名称の使用の停止を命ずることができる」と定めています。

厨房に立つシェフ

1本目の線:医業(医師法 第17条)

ここからが本題です。開業した栄養士が実際に問題になり得るのは、栄養士法ではなく他の法律の側です。

医師法 第17条は、たった一文です。

「医師でなければ、医業をなしてはならない。」

罰則は第31条にあり、3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はこれを併科とされています。本記事で扱った4本の線のなかで、法定刑がいちばん重いのはここです。

「医業」に何が当たるかは、条文には書かれていません。本記事では、その範囲を判断する通知や判例を確認していないため、具体的な行為の線引きは示しません。示せるのは、この線が存在し、越えたときの重さが他より大きいということまでです。

2本目の線:食品の誇大表示(健康増進法 第65条)

健康増進法 第65条第1項は「誇大表示の禁止」という見出しで、次のように定めています。

「何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。」

主語が「何人も」である点が重要です。事業者に限らず、食品として販売される物について表示をする人すべてにかかります。

処分の流れは第66条にあります。

  • 第1項:内閣総理大臣又は都道府県知事が、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる
  • 第2項:勧告を受けた者が正当な理由なく措置をとらなかったときは、その措置をとるべきことを命ずることができる

そして第71条が、第66条第2項の命令に違反した者は6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金と定めています。表示それ自体に直ちに刑罰が科される形ではなく、勧告→命令→罰則という順序になっています。

3本目の線:医薬品等の広告(医薬品医療機器等法 第66条・第68条)

いわゆる薬機法です。開業した栄養士がサプリメントや健康食品を扱うとき、ここに触れます。

第66条第1項は「誇大広告等」として、こう定めています。

「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。」

「明示的であると暗示的であるとを問わず」という一句が入っています。直接書いていなくても、そう読めれば対象になり得るという書き方です。

さらに第2項に、この職種に直接関わる規定があります。

「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。」

専門家が保証しているように見せる形そのものが、第1項に当たると条文で指定されています。「栄養士監修」という見せ方を考えるときは、この項を先に読んでおく価値があります。

第68条は、承認を受けていない医薬品・医療機器・再生医療等製品について、その名称・製造方法・効能・効果・性能に関する広告そのものを禁じています。

処分と制裁は3段構えです。

条内容
第72条の5厚生労働大臣又は都道府県知事が、第66条第1項・第68条の違反者に対し行為の中止等の措置を命ずることができる。違反行為が既になくなっている場合でも命令できる
第75条の5の2第1項第66条第1項に違反した者に対し、課徴金対象期間に取引をした医薬品等の対価の額の合計額に100分の4.5を乗じた額の課徴金の納付を命じなければならない
第85条第66条第1項又は第3項に違反した者は2年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金、又はこれを併科

出典:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第66条、第68条、第72条の5、第75条の5の2、第85条(e-Gov法令API 法令ID 335AC0000000145)

課徴金には下限があり、算定した額が225万円未満のときは納付を命ずることができないとされています(第75条の5の2)。裏を返すと、225万円という金額が発生し得る規模から対象になります。

4本目の線:優良誤認・有利誤認(景品表示法 第5条)

4本目は、食品や医薬品に限らず、売っているものすべてにかかる線です。不当景品類及び不当表示防止法 第5条は「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない」として、3つの号を置いています。

号内容
第1号(優良誤認)商品・役務の品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示す表示、又は事実に相違して同種・類似の他の事業者のものよりも著しく優良であると示す表示
第2号(有利誤認)価格その他の取引条件について、実際のもの又は他の事業者のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
第3号前2号のほか、一般消費者に誤認されるおそれがある表示で、内閣総理大臣が指定するもの

出典:不当景品類及び不当表示防止法 第5条第1号〜第3号(e-Gov法令API 法令ID 337AC0000000134)

第7条により、内閣総理大臣は第5条に違反する行為があるときに措置命令を出すことができます。こちらも、違反行為が既になくなっている場合でも命令できると条文に明記されています。

第8条第1項は課徴金です。課徴金対象期間に取引をした商品又は役務の売上額に100分の3を乗じた額とされ、その額が150万円未満のときは納付を命ずることができないという下限が付いています。

役務、つまりサービスも対象です。個別カウンセリングや講座を売る場合も、この線の内側にいます。

4本の線を、1つの表にまとめます

線禁止している条文行政処分罰則・課徴金
医業医師法 第17条—(本記事では確認していない)3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金(第31条・併科あり)
食品の誇大表示健康増進法 第65条第1項勧告(第66条第1項)→命令(同第2項)/内閣総理大臣又は都道府県知事命令違反に6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(第71条)
医薬品等の広告薬機法 第66条第1項・第68条措置命令(第72条の5)/厚生労働大臣又は都道府県知事2年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金(第85条・併科あり)+対価合計額の100分の4.5の課徴金(第75条の5の2・225万円未満は命じない)
優良誤認・有利誤認景品表示法 第5条措置命令(第7条)/内閣総理大臣売上額の100分の3の課徴金(第8条・150万円未満は命じない)

出典:各法令の条文(e-Gov法令API)。医師法の行政処分の有無、および各法の適用事例については本記事では確認していません

4本を並べると、性格の違いが見えます。医師法は「やること」を、残る3本は「言い方」を規制しています。そして言い方の3本には、いずれも違反行為が終わった後でも命令できるという設計か、売上に比例する課徴金が組み込まれています。

「もうやめたから大丈夫」も「小さくやっているから大丈夫」も、条文の側は想定していません。開業の失敗という言葉で語られるものの一部は、集客がうまくいかなかった話ではなく、この線を越えた結果として起きます。

開業を考えるときに確認できること

1. 名乗り方を条文と突き合わせる

「傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導」は管理栄養士の定義にあります。持病のある方を対象にすると打ち出す場合、自分がどちらの免許を持っているかを先に確認してください。

2. 商品を扱うなら「何法の対象か」を先に決める

食品として売るなら健康増進法 第65条、医薬品等に当たるなら薬機法 第66条・第68条、いずれでもサービスや商品全般として景品表示法 第5条がかかります。扱うものが3本のうちどれに当たるかで、見なければならない条文が変わります。

3. 「監修」の見せ方を第66条第2項と照らす

薬機法 第66条第2項は、専門家が保証したものと誤解されるおそれがある記事を、第1項に該当するものと明記しています。資格名を出すこと自体ではなく、効能を保証していると読める形かどうかが条文の関心事です。

4. 体験談・ビフォーアフターの扱いを決める

景品表示法 第5条第1号は「実際のものよりも著しく優良であると示す」表示を禁じています。個人の結果を全体の結果のように示す形になっていないかは、公開前に確認できることです。なお、具体的にどこからが「著しく」に当たるかは、本記事では確認していません。

5. 記録を残す

薬機法の課徴金は「対価の額の合計額」、景品表示法の課徴金は「売上額」を基礎にします。どちらも、いつ何をいくらで売ったかの記録が算定の前提になります。記録は、備えとしても説明の材料としても意味を持ちます。

独立ではなく、いったん職場を離れることを考えている場合もあります。辞める手続と、免許が手元に残ることについては栄養士を辞めたいとき|法律が用意しているのは4つですで扱っています。

行き詰まったときの相談先

開業してからの悩みは、法律の線引きだけではありません。事業の資金繰り、集客、値付けといった経営そのものの相談には、公的な無料窓口があります。

  • よろず支援拠点(独立行政法人中小企業基盤整備機構):中小企業・小規模事業者・創業予定者向けの無料経営相談所。各都道府県に設置されています よろず支援拠点全国本部
  • こころの耳(厚生労働省):働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト。電話・SNS・メールの相談窓口がまとまっています こころの耳

本記事では、栄養士の開業件数・廃業率・収入といった実態統計を確認できませんでした。そのため成功率や平均収入の数字は示していません。示せるのは、制度の側から見た「越えてはいけない線」の位置までです。

よくある質問

Q. 栄養士は開業できますか。

A. 栄養士法に、開業を認める規定も禁じる規定もありません。同法が定めているのは免許と名称の使用制限で、事業の形態には触れていません。したがって「開業してよいか」という問いに条文が答えているわけではなく、本記事が示せるのは、事業を営むうえで他の法律がかけている制限までです。個別の業態について許認可が必要かどうかは、本記事では確認していません。

Q. 栄養士がフリーランスで食事指導をするのは違法ですか。

A. 栄養士法にそれを禁じる規定は見当たりません。ただし医師法 第17条が医業を医師に限っており、その範囲の判断基準は本記事では確認していません。また、指導の内容を広告する段階では健康増進法 第65条・薬機法 第66条・景品表示法 第5条がかかります。本記事は個別の事案について適法・違法の判断をしていません。

Q. 栄養士の開業で失敗する割合はどれくらいですか。

A. 本記事では確認できていません。栄養士の開業・廃業に関する統計を一次資料で確認できなかったためです。数字が必要な場合は、当てにならない推計を使うより、扱う業態に近い分野の公的統計を個別に探すほうが確実です。

迷ったらここ

看板を出す前に、扱うものが「何法の対象か」を決める

栄養士法が守っているのは名称で、開業でつまずく線はその外に4本あります。薬機法の課徴金は対価合計額の100分の4.5、景品表示法は売上額の100分の3と、いずれも売上に比例して増えます。

  • 売るものは食品か、医薬品等か、役務か(かかる条文が変わる)
  • 「監修」の表示が、効能を裏づけていると読める形になっていないか(薬機法 第66条第2項)
  • 対象を「傷病者」と打ち出すか(第1条第2項は管理栄養士の定義にその文言を置いている)
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まとめ

  • 栄養士法が守っているのは名称であって業務ではない。免許は参入障壁にならない
  • 「傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導」は管理栄養士の定義にだけある(第1条第2項)。栄養士の定義は「栄養の指導」まで(第1条第1項)
  • 開業でつまずく線は栄養士法の外に4本。医師法 第17条/健康増進法 第65条/薬機法 第66条・第68条/景品表示法 第5条
  • 医師法違反が最も重い(3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金)。薬機法は2年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金+対価合計額の100分の4.5の課徴金、景品表示法は売上額の100分の3の課徴金
  • 薬機法 第66条は「明示的であると暗示的であるとを問わず」と書き、第2項で専門家が保証したと誤解されるおそれがある記事も第1項に該当するとしている
  • 薬機法 第72条の5と景品表示法 第7条は、違反行為が既になくなっている場合でも命令できると定めている

開業の準備というと、多くは集客と値付けの話になります。ただ、ここで挙げた4本は、うまくいき始めてから効いてくる種類の線です。売上が立つほど課徴金の基礎額は大きくなり、発信が届くほど表示は多くの人の目に触れます。看板を出す前に、自分が何を売り、それをどう言うのかを、この4本と突き合わせておいてください。

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この記事を書いた人

医療・福祉・保育の人材紹介の現場で求職者の相談を受けてきた編集者が担当しています。キャリアアドバイザー歴8年、転職相談・紹介の対応実績1,500人以上(自社実績/2026年8月時点)。介護・看護師・保育士・栄養士の4分野を担当。記事の数値には必ず出典と公表時点を添えています。

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