介護の夜勤、見守り機器で業務102.3分減 次の改定で論点に

老人ホームの館内。夜間の見守り機器の実証で直接介護と巡回・移動の合計時間が102.3分減少した
目次

30秒でわかるまとめ

  • 介護職の夜間の業務時間が102.3分減りました見守り機器の実証で、特別養護老人ホームの「直接介護」と「巡回・移動」の合計時間が減っています。
  • これは10施設だけの実証結果にすぎませんタイムスタディの対象人数は5人から44人でした。全国の平均ではありません。
  • 施設では機器がすでに広く入っています特別養護老人ホームで約90%、介護老人保健施設で約85%が導入済みです。訪問と通所は進んでいません。
  • 次の改定では夜勤のあり方が論点になります厚生労働省は「夜間の見守り機器を活用した場合の方策」をどう考えるかを分科会に示しました。

厚生労働省は2026年8月28日、社会保障審議会介護給付費分科会(第263回)に資料「介護現場の生産性向上等の推進」を示した。令和9年度の介護報酬改定に向けた論点整理の一環である。資料には、夜間の見守り機器を入れた施設で職員の業務時間がどれだけ減ったかの実証結果と、それを踏まえた論点が載っている。ここでは原典だけを読み、介護の現場で働く人から見て何が起きているのかを整理する。

夜間の業務時間は、特養で102.3分減った

厚生労働省は、見守り支援機器とインカムを組み合わせて導入した施設で、職員の業務時間を測る実証を行っている。結果は次のとおり。

施設の種類「直接介護」+「巡回・移動」の合計時間の減少
介護老人福祉施設(特養)102.3分
介護老人保健施設68.6分
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)59.9分

出典:厚生労働省 第263回社会保障審議会介護給付費分科会 資料2。事前調査と事後②調査の比較

ここで正確に読む必要がある。減ったのは「直接介護」と「巡回・移動」という2種類の業務の合計時間であって、夜勤そのものが102分短くなったという意味ではない。

さらに、この数字は介護職員1人1日(600分)あたりに換算した値である。資料には「調査結果の和から600分換算した値であり、短時間勤務等も含めて集計しているため実際の勤務時間とは異なる」と注記されている。

600分は10時間。実際の勤務時間ではなく、比較のためにそろえた換算値である。

ちはる

102分ということは、夜勤が1時間半以上も楽になったのでしょうか。

熊先生

そう読みたくなるね。でも減ったのは2種類の業務の合計で、勤務時間ではないんだ。

ちはる

その分の時間は、何に使われることになっているのですか。

ただし、これは10施設の実証である

この実証の対象は10施設である。タイムスタディは5日間の自記式で行われ、対象人数は施設の種類ごとに次のとおりだった。

施設の種類事前事後①事後②
介護老人福祉施設14人12人13人
介護老人保健施設5人6人7人
認知症対応型共同生活介護41人38人44人

出典:同資料

介護老人保健施設は事前調査で5人である。全国の傾向を示す数字ではない。資料も「実証」と位置づけており、統計調査とは書いていない。

利用者の側の変化も聞かれている。「定期巡回時の訪室回数が減った」に肯定的な回答は33%、「訪室回数の減少によって入居者の睡眠を妨げることが減った」にも33%だった(n=36)。これは設問への肯定率であって、業務時間の削減率ではない。

夜勤以外でも削減が確認されている。訪問系・通所系では介護テクノロジーの導入で文書記録時間が約16分減り、ケアプランデータ連携システムの活用では、居宅介護支援事業所の実績確認と予定実績入力の業務が約6.5時間削減されたとされている。

施設は9割が導入、訪問と通所は進まず

機器がどれだけ広まっているかも調べられている。「介護テクノロジー利用の重点分野」「ウェアラブルデバイス」「職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(インカム等)」のいずれかを導入していると答えた割合である。

区分導入状況
介護老人福祉施設約90%
介護老人保健施設約85%
訪問系・通所系サービス「普及がしているとはいえない状況」

出典:同資料

資料は施設系について「幅広く普及してきたことが確認された」と書いている。施設で働くなら、機器はもう例外ではなく前提に近い。一方、訪問系・通所系は施設系と比べて普及していないとされている。

人の配置についても、いわゆる介護助手を活用している施設・事業所では「介護職員の身体的負担軽減につながった」が78.5%、「サービスの安定的な提供につながった」が74.9%という結果が出ている。

ちはる

施設では9割が導入済みなのですね。もう当たり前になっているのですか。

熊先生

施設系はそうだね。ただ訪問と通所は「普及しているとはいえない」と書いてある。

ちはる

……ということは、同じ介護でも働き方の前提が違ってきているのですね。

熊先生

うん。そして次の改定では、そこが論点として出てきている。

次の改定で夜勤の方策が論点になる

令和6年度の介護報酬改定では、すでに次の措置がとられている。

  • 施設系サービスを対象に生産性向上推進体制加算を新設
  • 特定施設において、質の確保と職員の負担軽減を確認したうえで人員配置基準を特例的に柔軟化
  • 介護老人保健施設等における見守り機器を導入した場合の夜間の人員配置基準の見直し
  • 認知症対応型共同生活介護における見守り機器等を導入した場合の夜勤職員配置加算の見直し

そのうえで、令和9年度の改定に向けた論点にこう書かれている。

特に夜間の見守り機器の活用による職員の業務時間の削減等が見られたことを踏まえ、夜間の見守り機器を活用した場合の方策についてどのようなものが考えられるか。

厚生労働省 第263回社会保障審議会介護給付費分科会 資料2「介護現場の生産性向上等の推進」

論点はあわせて、利用者のQOLや安全等の確保を図りつつ、介護職員の業務負担軽減とサービスの質の向上を図り、多様な人材がやりがいをもって働ける介護現場にすること、と書かれている。

論点はもう1つある。経営の協働化・大規模化である。資料は、介護人材の不足に対応し安定的にサービスを提供するには、経営の協働化・大規模化によって人材や資源を効果的・効率的に活用することが重要だとしたうえで、地域の実情等を踏まえた推進の方策を問うている。すでに「介護現場の働きやすい職場環境づくりに向けた経営の協働化・大規模化の進め方ガイドライン」が取りまとめられ、令和7年度補正予算では小規模事業者を含む事業者グループの協働化支援が実施されている。

働く側から見ると、これは法人の規模が変わりうるという話である。前提として資料が置いているのは、介護サービスの需要が高まる一方で生産年齢人口が急激に減少するという見通しである。

資料が書いているのは「方策を考える」までである。基準を緩めるとは書かれていない。

編集部の見方:減った時間の行き先は未定

ここからは編集部の見方である。ここまでは資料に書かれている事実で、以下は解釈にあたる。

この資料でいちばん大事なのは、実は102.3分という数字ではない。その時間が何に使われるのかのほうである。

資料は冒頭で、生産性向上をこう定義している。業務の改善や効率化で生み出した時間を直接的な介護ケアの業務に充て、利用者と職員が接する時間を増やすこと。そして職員の残業削減や休暇の確実な取得、教育・研修機会の付与など職員への投資を充実させること。

これは定義であって、保証ではない。同じ「時間が減った」という事実からは、ケアや休暇に回すという読み方と、その分だけ人を減らせるという読み方の両方が出てくる。令和6年度改定ですでに、見守り機器を入れた場合の夜間の人員配置基準は見直されている。

そのうえで、この資料から言えないことも書いておく。機器を入れた施設で夜勤の人数が実際に減ったかどうかは、この資料には載っていない。職員の残業時間や有給休暇の取得がどう変わったかも、評価項目には挙がっているが結果は示されていない。「機器がある=夜勤が楽」とは言えない。

言えるのは、見学や面接で聞ける項目が増えたということである。機器が入っているかだけでなく、入れたあとに夜勤の人数をどうしたかまで聞けば、その事業所がどちらの読み方をしたのかが分かる。

ちはる

機器が入っていれば夜勤は楽になる、と単純に考えていました。

熊先生

入れたあとに何をしたかで変わるからね。そこを一つ聞いてみるといいよ。

迷ったらここ

見守り機器は「入れたあとに何をしたか」まで聞く

機器を導入した施設は特別養護老人ホームで約90%、介護老人保健施設で約85%です。導入しているかどうかだけでは差がつきません。実証では夜間の業務時間が102.3分減っていますが、その時間をどう使ったかは事業所ごとに違います。

  • 見守り機器を入れたあと、夜勤の人数は変わったか
  • 減った時間は何に使われているか(ケア・記録・休憩のどれか)
  • 生産性向上推進体制加算を算定しているか
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出典

編集部メモ

  • 記事に載せた数値は、すべて厚生労働省の資料から直接取り、編集部で確かめています。この資料には合計を検算できる表がないため、同じ資料の2か所を突き合わせました。実証結果のページでは「102.3分減少」、現状と課題のページでは同じことを「約100分減少」と書いています。丸める前と丸めた後の両方が載っているので、本文では丸める前の102.3分を使いました。
  • 「102.3分減った」は、勤務時間が短くなったという意味ではありません。「直接介護」と「巡回・移動」という2種類の業務の合計時間であり、しかも介護職員1人1日(600分)あたりに換算した値です。本文にどちらも書きました。
  • この実証の対象は10施設です。業務時間を測った対象人数は、いちばん少ないところで5人でした。全国の傾向としては書いていません。
  • 33%は、2つの設問に対する肯定の割合です。業務時間が33%減ったという意味ではありません。
  • 「約6.5時間の削減」には、原本に期間の記載がありません。1日あたりなのか1か月あたりなのかが分からないため、本文でも期間を補っていません。
  • 機器を入れたあとに夜勤の人数がどうなったかは、この資料では分かりません。人員配置の調査は評価項目に挙がっていますが、結果は示されていません。職員の残業時間や有給休暇の取得状況も同じです。
  • 資料は論点を「方策についてどのようなものが考えられるか」と書いており、基準を緩めるとは書いていません。本文でも断定していません。
  • 報道各社の記事は参照していません。数値も記述も、すべて原典から取っています。
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この記事を書いた人

医療・福祉・保育の人材紹介の現場で求職者の相談を受けてきた編集者が担当しています。キャリアアドバイザー歴8年、転職相談・紹介の対応実績1,500人以上(自社実績/2026年8月時点)。介護・看護師・保育士・栄養士の4分野を担当。記事の数値には必ず出典と公表時点を添えています。

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